秘密 痔瘻の手術をした先生が名医のはずがハートマン軍曹だった件

平 一悟

痔ろうの話

 痔ろう……それは痔の王様と呼ばれる痔の病気です。

 下痢などの時に肛門小窩と言われる腸の肛門近くにある穴に便が入り、それによって細菌が肛門周囲に侵入して炎症を起こし、肛門周囲膿瘍となった後に、それが爆ぜて血が出て、肛門周囲に排膿することを繰り返した結果、痔瘻となるものです。

 

 肛門周囲膿瘍が爆ぜた段階で運よく治る人もいますが、大半はそこから何度も繰り返し、痔ろうになります。


 つまり、肛門以外に外に便とかが少し通る管ができるわけです。


 下着が妙に汚れる人はこれです。

 

 血が出た段階で判断する時は、厄介なのは単にいぼ痔だと勘違いしてそのままにする場合があります。

 

 ガンになる事があるらしくてて治療した方が良いです。


 最初の肛門周囲膿瘍になった時には大半が高熱が出ますので、それでよく知ってる人は気が付くし、血だけでなく膿も出るので、その段階で肛門科に行けば痛みはなく終わるそうです。


 私は血の肛門からの出血が腸のガンだと怖いので、いぼ痔だといいけど不安に思って肛門科に行くことにしました。

 

 で治療を決めた時の診てもらう先生選びは大事です。


 うちは地方の県にいますが、地元の県下屈指の大病院ですら、知人が余命4か月の大腸がんを宣告されて、諦めきれず東京の有名な先生を検索で探して、その日本一と言われる先生のとこに行って治って、10年以上も元気で生きてます。


 だから、いろいろと伝手を使って見つけました。


 隣の市にある何でも九州とか中四国とかの大学病院で処置できない場合はその先生に頼んで痔や痔ろうを治してもらうとかいう、ある意味では伝説の名医でした。


 それで早速行きました。


 待合室にはすでに30人以上の人が待っており、これで痔の検査とか時間がかかりそうだなと思っていたら、そこは素晴らしい事に、治療室が6くらい並んでいて、それで次々とそこに患者を入れて看護婦さんが準備して、先生はそれを流れ作業で一つ一つやっていくと言う素晴らしい方法を使われていました。


 早速恥ずかしながら、尻を出してベットに寝ます。


 そうすると看護婦さんが毛布を掛けてくださって、それでお尻を隠します。


 先生が良く見えるように横になりました。

 

 看護婦さんは優しく肛門周辺を洗浄して綺麗にしてくれます。


 そして、先生は来ると、どれどれと言いながらいきなり指を突っ込んできました。


 勿論、看護婦さんにトイレは済ませたかとかは聞かれますから、うんこが残ってないのは分かっているとは言え躊躇ありませんでした。


「なんだ。痔ろうじゃん」


 そして、あっさり宣告されてしまいました。


 腕のいい肛門外科になると指を突っ込んだだけで、分かるとはマジでした。


 逆にそれで名医だと分かりました。


 すぐに数日後に下剤を飲んで便を出し切っからの手術が決まりましてた。


 勿論、消化器の内視鏡と同じで、ドリンクみたいなのを大量に飲むだけでなく、前日から食事として残らない医療用のものを食べで行きます。


 痔ろうは管のようなものができるので、それに糸を通して切り裂いていくインドの伝統の手術とメスで切り裂いてそのままにする手術の二つがありますが、先生はメスで切り裂いてそのままにする方で、レーザーメスでくり抜く派でした。


 メスで切り裂く派は傷跡は中で腐るとまずいので縫わないので腸内で傷口をそのまま晒すようになり、トイレに行くときに傷口にうんこを擦り付けるようになるので激痛になります。


 糸を通すやり方は糸で腸まで管を切るので、先生が糸を引っ張って毎回切るからその時だけ激痛があります。


 糸を残したままで、その先生の糸で切る治療が怖くて、そのまま病院に行かずに生活する人もいると聞いて、切る方にしました。


 切るにしろ、くり抜くにしろ1か月から2か月で治りますが、糸は一年以上かかるらしいので、これがベストなのだと心に言い聞かせました。


 薬では治らない病気なのです。


 漢方で痔ろうを治すとか言うのはありますが、うそです。


 治ることないです。


 一度出来た管は切除しか方法は無く、放置すると肛門周辺に次々と穴を増やしていくそうです。


 だから、薬は考えませんでした。


 そして、手術の当日に麻酔をしてもらい、先生がレーザーメスで俺の肛門を切り始めます。


 激しい激痛がします。


「痛いっ!!! 」


「なんだ、あの量だと麻酔が効いてなかったか」


 そう先生が笑います。


 いきなり不安になりました。

 

 名医なのに。


 いやいや、すまんすまんって言われましたが、こっちはいきなり不安まみれです。


 治療の間、レーザーメスのせいか焼き肉屋の匂いがずっとしました。


 そして治療が終わり、目の前にまるでホルモンのような直径1.5センチ近いくらいの白くなった3センチほどの管がありました。


「久しぶりの大物だったよ。それといぼ痔もあったから3つくらい切っておいたから」


 先生が凄く嬉しそうでした。


 ちょっと嫌な予感がしましたが、家に帰って地獄がはじまりました。


 麻酔が切れて激痛がするのです。


 そして、ボルタレンは全く効きませんでした。


 座薬のボルタレンは効きますが6時間から8時間で切れます。


 1本しかくれないので、上座では効かず、痛みがたまらないので、次の日に緊急で病院に行きました。


 前日に痛みが酷いとか何かあれば来てくださいと言われてたからです。


「いやいや、大げさだな。痛いと思うから痛いんですよ。平さんはもう……」


 と小馬鹿にされました。


「いや、本当に痛いんです」


 そう私は反論しました。


 よく考えたら、大きな痔ろうをくり抜いて、いぼ痔も3つ切ったとか。


 痛くないはずが無いのに。


「仕方ないから麻酔しますよ」


 とか嫌々言われたけど、平さんはめんどくさいから、いぼ痔が起きないようについでに中に薬も全面に注入しておきましたから(そういう薬があるらしいです。痔ができないように固めるとか)とか言うし。


 それで痛みは引いたのですが、それでも麻酔が切れると激痛がします。


 一週間、布団にしがみついて耐えました。


 しかし、うんこが出る時が凄かった。


 そりゃあ、傷口にうんこを擦り付けてんですから。


 で、目から火花が出るという漫画の表現がありましたが、本当に稲光のように光るのです。


 びびりました。


 痛すぎるとこうなるんだと。


 しかも、うんこをした後に1時間くらい身体が小刻みに痙攣します。

  

 痛すぎる。


 後に親知らずを横に生えた2時間かかった大物を抜きますが、これに比べたら全く痛くなかったです。


 痛い話をするたびに、平さんは大げさなんだからとか、『痛いと思うから痛い』って断言されて辛かった。


 私だけかと思ったら、横のおばちゃんも痔ろうで出産より痛かったとか。


 そんな治療が続き、痛いからといつまでも座薬のボルタレンを用心に欲しがったら、『痛いと思うから痛いんだ! 机で座って仕事してるのが悪い! 毎日二キロくらい歩きなさい! 歩いたら治るんです! 』と叫ばれて、その日から毎日2キロ近く歩くことにしました。


 そうしたら、どうも尻がおかしい。


 異様な出血とお尻を触るとドーム状の直径2センチ深さ1.5センチくらいの何かが肛門から10センチくらい離れた場所にあります。


 流石に何かおかしいと思って、次の日病院に行きました。


「全く、平さんはねぇ。痛い痛いとか子供みたいで。痛いと思うのは幻覚だから。痛いと思うから痛いんだから」

 

 といつもの如く延々と始まりましたが、尻に穴が開いてるのを見て黙り。


「あまり歩き過ぎたら駄目ですよ」


 とか言い出して、さらには


「多分血玉が出来て爆ぜたんだと思う。平さんはそういう体質なんですね」


 と説明されて終わった。


 おいおいおいおいである。


 歩く距離は減らしたが、ようやく3週間目で痛みも引いて良くなってきた。


 うんこしてもいたくなくなり、喜んでいた。


 そんなある日、先生に状態をいつものように治療室で横になって見て貰うと、痔ろうの傷口あたりでじょりって感じで切られたような感覚とあふれるような血が肛門から出てきた。


「な、なんなんです? 」


「うーん、ちょっと傷のふさぎ方がイメージと違って汚かったから、もう一度外科ハサミで傷口を切ったから」


 などと微笑まれた。


「いやいや、血が垂れてませんか? 」


「あーあー、電気メスで止めるから、そんなに心配しないで」


 などと笑い、肛門から焦げた匂いが。


 もう泣きそうで家に帰って最初のトイレに行くと、肛門からぽろぽろと血の焦げた塊が大量に出てきました。

 

 もう、恐怖でしかなかったです。


 で、それもやっと欲なって、ある日、寝床と先生と看護婦が動くスペースだけがある処置室の隣の処置室で先生と若い女性の患者さんが言い合う声が聞こえました。


「いぼ痔があるから切った方が早いよ」


「いや、薬で治します」


「切ったらすぐ治るよ」


「薬で地道に治します」


「そんなに痛くないから」


「薬でお願いします」


 と言い合いして若い女性の患者さんが勝ったようです。


 それをたまたま病室を出る時に若い女性の患者さんがドアをあけ放って出て行ったので、先生が凄く悔しそうにベットの横の椅子に座って俯いているのが見えました。


 どんだけ切りたいんだ! と。


 などといろんな思いではありましたが、最終的には名医の名の如くきれいに治りました。

 

 その治療の事を友人に愚痴ったら、その友人は若いのに胃癌で胃の2/3をとったことがあり、手術して一週間くらいしか経っていないのに、ベットが足りないからと退院させられたとか。


「名医だから治ったけど、医者ってそんなもんだから」


 はい、名医だから痛くないとは限らないと。


 困ったもんです。


 どこが秘密なんだと言われそうだけど、最近、先生が亡くなられて、そろそろ全部書いてもいいかなと思って書きました。


 秘密にしていたのは、またお世話になるかもしれないからです。


「痛いと思うから痛いんだ! 」


「働いてれば痛みなんて、すぐに忘れる! 」


「貴方が痛いと思うのは幻覚です! 」


 名医であった今は亡き大先生の名言です。


 ほかの患者さん仲良くなったら、皆言われたことがあったそうです。


「痛いもんは痛いわ! 」


 これは仲良くなったおじさんの名言です。


 最近はウオシュレットの水を肛門に入れてしまう人が増えて、それで痔ろうが増えているという話でした。


 気を付けましょう。


 なると滅茶苦茶痛いです。


 洒落になんないよ!


 最後に先生、いろいろありましたが、それから何もないです


 ありがとうございました。

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