終電を逃して彼氏持ちJKの家に泊まることになってしまった俺。誰か正しい対処法を教えてください!!
さばりん
第1話 寝過ごした
「お客さん! お客さん!」
身体を揺さぶられた感覚と鋭い声で呼ばれ、
瞼を開くと、視界に捉えたのは、困り顔を浮かべる駅員さんの姿。
「あっ、やっと起きた。終点です。降りてください!」
駅員さんに急かされて、悠馬は寝ぼけた思考で考えを巡らせながら目を瞬かせた。
悠馬が乗っている電車は、東京の大動脈と言われている山手線。
山手線は環状運転をしているので、終着駅など存在しない。
何かの間違いかと思いつつ、悠馬は車内の様子を見渡した。
すると、あんなに人で溢れかえっていたはずの電車内はもぬけの殻となっており、乗客の姿は見当たらない。
き●らぎ駅にでも連れて来られてしまったのだろうかと思い、目を疑ってもう一度車内を見渡してみるものの、先ほどと変わらぬ殺風景が広がっていた。
「ここはどこですか?」
状況が読み込めず、悠馬は駅員さんに尋ねた。
「大崎駅です。この電車は大崎止まりです」
大崎駅は、品川駅の一個手前の駅であり、山手線の車両基地があることでも知られている。
夜の時間帯になると、電車が車両基地へと運ばれて行くため、大崎止まりの電車が増えていくのだ。
よって、悠馬みたく品川駅まで行きたい人にとっては一駅手前で降ろされることになるため、イライラする行き先として有名な駅だったりする。
どうやら悠馬が乗っていた電車は大崎止まりの電車だったらしく、その車内でうたた寝をしてしまったらしい。
「あっ、そうだったんですね。すいません今降ります」
駅員さんに一礼してから身体を動かそうとすると、ふと身体の右側に重みを感じた。
ちらりと視線を向ければ、そこには制服姿のJKが、悠馬の肩を枕代わりにしながらスヤスヤと心地よさそうに眠っていた。
しかも、その女の子は、悠馬が通う同じ学校の制服を着ていて――
「……って、吉川さん⁉」
悠馬は咄嗟に、隣で居眠りするクラスメイトである
「隣の彼女さんも起こしてあげてください」
「か、彼女!?」
駅員さんに彼女と言われて、悠馬はさらに大きな声を上げてしまう。
すると、悠馬の大きな声で目を覚ました利香が、モソモソと身体を起こして目を覚ます。
身体を起こした利香は、重い瞼を開きながらボケーっと呆けている。
しばらくして、利香はこちらを一瞥すると、コテンと首を傾げた。
「あれ……西野君?」
「お客さん。終点です。電車から降りてください」
「はぁーい」
駅員さんが利香を促すと、彼女は呑気な返事を返しながらすっと立ち上がって電車を降りるため歩き始める。
その際、利香は足元に置いてあったスクールバッグを持たないまま降りていってしまったため、悠馬は慌てて彼女の荷物を手に持って駅員さんに一礼した。
「お騒がせしました」
悠馬は駅員さんに謝罪の言葉を口にしてから、ふらふらと覚束ない足取りで電車を降りていく利香の後を追うようにして電車を降りた。
二人が電車を降りると、『降車終了。確認よし』という校内アナウンスが流れて、悠馬と利香が乗っていた電車の扉が閉まってしまう。
そこで、悠馬はもう一つの異変に気付く。
降り立った大崎駅のホームに、悠馬と利香以外の人が見受けられないのだ。
3分に1本は電車が行き来する東京の大動脈である山手線の駅とは思えぬほど、ホームには人一人おらず、辺りは静寂に包まれている。
悠馬は嫌な予感がして、近くにあった電光掲示板を恐る恐る見上げた。
電光掲示板には通常、次の電車が来る時刻が書いてあるのだが、その表記すらなく、案内表示は真っ暗で、文字一つ書いていない。
悠馬は咄嗟にスマホを取り出して時刻を確認する。
スマホのデジタル時計は、『1;00』と表示されていた。
「やっちまったぁ……」
悠馬は思わず額に手を置いて天を仰ぐ。
(やらかした。完全にやらかした)
記憶が正しければ、悠馬は新宿駅で22時30分頃の山手線に乗車したはず。
その後、吊革につかまりながら何とか眠気に耐えていたら、運良く渋谷駅で席が空いて座ることが出来て……そこからの記憶が全くないのだ。
つまり、悠馬は車内で深い眠りに落ちてしまい、そのまま山手線は悠馬を乗せたまま何周もして、終着駅であるこの大崎駅に辿り着いたのだろう。
普通であれば、次の列車があってもおかしくないのに、悠馬が乗っていた電車が最終列車になるとはなんという確率だろうか。
「どうしたの西野君?」
すると、悠馬の様子に気付いたクラスメイトの利香が、呑気な様子で階段の方を指差した。
「とりあえず、駅員さんの迷惑になっちゃうから、改札口に向かおう」
「うん、分かった……」
利香に促され、ひとまず改札口へと向かって歩くことにする。
悠馬はそこで、一歩前を歩く利香がいることに首を傾げた。
利香はどうして悠馬の隣に座って一緒に眠り込んでいたのだろうか?
というか、利香も終電を逃してしまったのでは?
これから家までどう帰るつもりなのか?
そんな色々と聞きたいことが次々と出てくるものの、ひとまず終電が終わってしまった以上、一旦駅構内からでなければならない。
利香と一緒に改札口を出ると、大崎駅の改札前にシャッターが下ろされて行く。
シャッターが下りて行くのを眺めつつ、悠馬は利香の方へと向き直る。
(さて、これからどうするか)
悠馬は最悪野宿でもいいとして、利香の事は一刻も早く自宅へと送り届けなければならない。
一応、悠馬も両親から心配するメッセージが届いていないかを確認する。
しかし、両親は既に寝てしまっているのか、連絡はなかった。
いつもアルバイトから帰る時間には、寝入ってしまっているので、恐らく悠馬が帰宅していないことに気付いていないのだろう。
だけど、今からわざわざ車で迎えに来てほしいと頼み込むのも気が引ける。
悠馬のことで心配をかけるよりは、明日の仕事のためにゆっくりと休んで欲しいという気持ちが勝ってしまう。
「西野君。そんなところで突っ立ってどうしたの?」
すると、利香が不思議そうな表情を浮かべながら尋ねてくる。
悠馬の思考はすぐさま、利香を家に送り届けなければという考えに切り替わった。
「いや、終電無くなっちゃったから、ここからどうやって吉川さんを家まで送り届けようかと思って……。最悪、タクシーを使うとして」
悠馬は駅前のロータリーにあるタクシー乗り場を見つめる。
ロータリーには数台のタクシーが止まっていた。
利香をタクシーで届けることは出来そう。
問題はお金だが、一万円あれば、利香を家に送り届けることが出来ると信じたい。
悠馬が財布の残高を確認しようとしたところで、利香にぎゅっと服の袖を掴まれた。
「平気だよ。
「えっ、そうなの?」
「うん! ここから歩いて10分ぐらい」
「そっか、ならよかったよ」
ひとまず、利香を家に送り届けられることに安堵する悠馬。
「それじゃ、家まで送るよ。夜道は危ないから」
「ほんとに? ありがとー!」
利香はにぱっと笑みを浮かべて、感謝の意を伝えてくる。
ひとまず、自分のことは利香を送り届けてから考えることにした。
「それじゃ、行こうか」
「うん!」
すると、利香は悠馬の方へ近寄って来たかと思うと、おもむろに悠馬の手を掴んでくる。
「えっ……?」
突然手を繋いで来た利香の行動に動揺していると、利香が遠慮がちな視線をこちらへと向けてくる。
「夜道は危ないから……ねっ?」
「う、うん……分かった」
利香に手を握られて、ごくりと生唾を呑み込んでしまう悠馬。
(これはあくまで夜道が心細いからこそのものであって、それ以上でもそれ以下でもない。利香の手小さいなとか、すべすべしてるなとか、全然そんなこと思ってないし⁉)
悠馬は頭の中で言い訳を繰り返す。
後々、タクシーで送り届ければよかったのだと気づいたけれど、この時の悠馬は、手を繋がれた動揺と嬉しさと罪悪感で頭がごちゃ混ぜになってしまっていて、頭の片隅にも思いついていなかったのである。
何故感情が入り混じっているのか。
それは、今目の前にいるクラスメイト吉川利香に対して、悠馬が好意を抱いており、なおかつ彼女には彼氏がいるからである。
まさに悠馬は今、禁断の状態にあると言えよう。
彼氏持ちの女の子、しかも悠馬が好意を抱いている相手と手を繋ぎながら家まで送り届けようとしているのだから。
しかし、悠馬はこの時、利香の本当の真実に気が付いていなかった。
それは――
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