ひとつまみ
浅倉浦賀
一方こちらでは
そのライオンは大きなあくびをした。アメリカンドリームにより富を築いた富豪に飼われた彼は専属シェフにより作られた最高級の餌と環境を与えられ、日々を過ごしていた。
ある日、彼に近づく一匹の荒々しいライオンが現れた。そのライオンは生臭い口を開き彼に言った。
「おいこんな所でぬくぬく暮らしてて良いのか?」
いきなり現れた同胞に驚いた様子だったが、言葉の意味を理解した途端、バカにされている事に彼は気づいた。
「僕はこれでも満足しているんだ。君みたいに命を掛けなくても、朝昼晩に美味しい飯が出てくるんだぞ。」
「いーやお前は何にも分かってないね。見たところ俺と同じくらいの若さだが、そんな生活を続けてたら将来どうなるか考えただけでもタテガミが立つ。」
「なぜだ?少なくとも君よりは長生きできるし、遊んでくれる人もいる。死ぬまで安泰だよ。」
すると柵の外のライオンは、水を得た魚のように早口で喋り始めた。
「はぁ。そんな考えだからだよ。いいか、お前の主人がずっとこの生活を保てると限らないだろ?もしかしたら明日には主人が死ぬかもしれない。そうしたらお前は当然追い出される。そんな時はどうするんだ?生きていける自信はあるのか?」
それを聞いた柵の内にいるライオンは少し納得した。
「じゃあこれからどうすればいいんだ?」
「対抗できる力をつけるんだ。まあ、いざとなったら俺たちはちょっと本気を出すだけでそこら辺の人間だったら簡単にひれ伏せさせることが出来るんだぜ。」
「そんな簡単にできるのか?」
「ああ。ついさっきもちょっと吠えただけで、あいつらまぬけに腰抜かして立てなくなってた。」
この後、考えを改めたライオンは鍛錬を続け、豪邸に侵入した泥棒を噛み殺すという事件を起こした。しかし、主人に危険と判断され、飼育員の監視下の元で自然公園に返された。
一方、柵の外にいたライオンは足速にサーカスに戻り、圧倒的な芸で観客達の腰を抜かしていた。
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