第38話 大事な妹
――――――
左希といる時間は楽しくて、二人で遊んでいると時間がすぐに過ぎていくのを感じる。左希は私にとって特別な存在だ。
ただ、私にとってもう一人、特別な人がいる。たっくん……
私と左希より一つ上の、幼馴染。そして私の、初恋の人。
そして、彼のことを好きなのは私だけではなく、左希もそうなのだろうと、思っていた。
おんなじ人を好きになって、このまま一定の距離を保っていくのか……そう、思ったりもしていた。
だけど、時間が経つほどにこの気持ちは膨れ上がった。なにもせずに、この気持ちを抑えておくことなんてできない。
だから私は、高校入学と同時に彼に告白することを決めた。
そして、そのために確認しておかなければいけないことがある。
『ねぇ、左希……左希はさ、たっくんのこと、どう思ってる?』
『? たっくんのこと? どうって……』
『その……す、好き、なのかな、とか……い、異性として』
『まあ……幼馴染としては、ね』
以前、左希はこう言っていた。たっくんのことは、異性として見てはいないと。
だけど、左希のことだ。照れ隠しで、ごまかしたのだとも思った。だから私は、もう一度聞いた。
抜け駆けのようなことは、したくなかったから。
『あの……私、ね。明日。たっくんに告白しようと思うの』
『……! ……へ、へぇ……そうなんだ』
『……いいの?』
『なにが? いいんじゃない?』
高校に入学した日。私は、自分の想いをぶつけた。
明日、たっくんに告白しようと思っていること……それはつまり、私がたっくんに対して、異性として好意を抱いているということ。
もし、左希もそうだというのなら、また考えようとも思った。
でも、左希の答えはこうだった。私の想いを知った上で、背中を押してくれた。
だから私は、もう自分の気持ちを隠すことはせず……翌日、たっくんに想いをぶつけた。
もし断られたら。今のままの関係で、いられなくなったら。そう思うと、怖かった。
でも、抑えられなかったのだ。
そして、結果は……受け入れて、もらえた。
『さ、左希! ど、どうしよう!』
『どうかした? あ、やっぱり告白はできなかっ……』
『た、たっくんに! オーケーされちゃったよー!』
『…………え?』
あのとき私は、飛び上がってしまいたくなるくらいに嬉しかった。実際に飛び上がっていたかもしれない。
左希に喜びを伝え、喜びに打ち震えた。
そのとき、左希がどんな顔をしていたのか、私はよく覚えていない。
『へぇ…………そっ、か。お姉ちゃんと先輩、付き合い始めたんだ。はは、おめでとう』
ただ、問題もあった。彼氏と彼女……つまり恋人になったわけだけど、恋人になったらなにをしたらいいのか。
それを左希に聞くのは、なんだかためらわれた。だから、高校でできた友達に聞いてみた。
『付き合ったらー? そりゃまずは、手を繋いだりデートしたり……まあ二人でいりゃ、楽しいことばっかだと思う』
『きゃわわぁ、いつもと違ってオトメェ』
『うるせっ。
あとはまあ……こういうのは段階を踏んでからだけど、やっぱ好きな相手とは、シたいと思うよな』
アドバイスを貰ったけど、それをうまく実践できる勇気はなかった。
だって、手を繋ぐのだって……考えただけで、恥ずかしいのに。でも、昔はよく手を、繋いでいた気がする。
恋人になって、幼馴染よりも近くなったはずなのに……なんだか、遠くなってしまったような気もする。
『それでさー』
『はは、そうなのか』
だから、左希がうらやましかったりもした。
以前と変わらない距離感で接する左希。私も、以前のままだったらあんな風に……
……いや、それは無理か。左希は、私にないものを持っている。あの明るさも、そうだ。
その隣でたっくんが笑っているのは、嬉しいけど……胸が痛い。
だから、だろうか。今までは、左希に相談するのは躊躇があった。
でも、たっくんと変わらずに話している左希なら、なにかいい案が出せるのではないかと、思った。
『……先輩、お姉ちゃんとうまく、いってないの?』
『ん、うまくいってないっていうか……まあ、なんというか。あんまり、恋人らしいことができてないんだよな。どうしたもんか』
ただ、さすがは妹といったところか。私がなにを相談するより先に、左希から聞いてきた。
付き合い始めて、約三カ月が経った頃だった。
そして、それから少しの時間が経った頃だった……
これまで、左希はたっくんと変わらずに話していたけど、まるでなにかを忘れようとしているようながむしゃらな様子が見えた。
でも、それがなくなったのだ。代わりと言っていいのかはわからないけど、まるで罪悪感のようなものを感じさせる顔をすることが増えた。
『もうすぐ夏休みだし、距離を縮めるならそこがベストじゃないか?』
『夏って開放的になるって言うしね!』
友達のアドバイスを受け、私は夏休みに行動を起こすことを決めた。
まずは、プール。去年も水着は見せたけど、恋人になったからか恥ずかしさの度合いが違う。
でも、喜んでもらいたい。なので、露出のあるものがいいのかなと思ったんだけど……結局、勇気が出なくてワンピースタイプになってしまった。
だけど、すごく似合ってると言ってくれた。それだけで私は、胸がいっぱいになった。
プールで、たっくんとの距離を縮める……ウォータースライダーを一緒に滑り、物理的にも距離は縮まった。。
後ろから、たっくんに抱きしめられる形で。それを思い出しただけで……!
だけど、楽しい時間は続かなかった。左希が、ナンパに遭ったというのだ。
本人は強がっていたけど、あれは泣いていた。私は、腸が煮えくり返りそうになった。
『……ごめんね、お姉ちゃん。アタシのせいで……』
その日は結局お開きになり、左希は私に謝った。左希が私に謝る必要なんて、どこにもないのに。
目的は達成できたとは言えないけど、大事な妹の方が優先だ。たっくんに抱きしめてもらっただけで、よしとしよう。
その日を境に、私は左希を気にかけるようになった。たっくんもだ。
大事な左希のことだもん、過保護と言われたっていいさ。
そんなある日のこと……私は友達と遊びに、出掛けた。
左希を残すのは心配だったけど、今日はたっくんと家で勉強会だと言っていた。問題はないだろう。
帰りに、なにか甘いものでも買って帰ってあげようか。そんなことを想いながら、その日は楽しく時間が過ぎていった……
『今日だけ、でいいから……
アタシを、アタシとして抱いて……!』
家に帰った私の耳に聞こえたのは……想像もしていない、言葉だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます