第二章 壊れていく関係
第18話 私への、バツだ
アタシの名前は、
姉の
でも、中身は正反対だ。アタシは活発で友達が多かったけど、お姉ちゃんはおとなしめで静かなタイプだ。
ただ、お姉ちゃんは不思議と人を惹き付ける魅力、のようなものがある。
アタシは自分から人に絡みに行くけど、お姉ちゃんは周りから人が寄って来る。
アタシは昔からそんなお姉ちゃんを、羨ましいと思っていた。
だって……
『よう右希、おはよう』
……隣に住んでいる、男の子。
彼は、アタシたち姉妹にとって幼馴染の男の子であり、一つ年上だ。そんな彼と、物心つく頃にはもう遊んでいた。
彼は、アタシたちが二人揃っているとき、決まってお姉ちゃんの方から挨拶をする。そして、アタシが自分もいる、とアピールするのが、一つのパターンになっていた。
『おう、左希もおはよう』
すると彼は、アタシにも挨拶をしてくれる。
優しい彼のことだ、深い意味はないのかもしれない。でも、彼が一番に挨拶するのは、お姉ちゃんからだ。
お姉ちゃんだから。人が寄って来る性質だから。アタシは黙っていても自分から絡みに行くから……
だからアタシは、じっとしていても人に構ってもらえるお姉ちゃんが、羨ましかった。
アタシはお姉ちゃんが、大好きだ。お姉ちゃんのことを羨ましいと思うし、同時に尊敬もしている。
アタシたちの性格は正反対。だけど、心の底では似た者同士だ。
好きな食べ物、好きなおもちゃ、好きな戦隊ヒーロー……
そして、好きな男の子が同じなのも、不思議はなかった。
『なんだよ左希、そんな顔して。なんかあったか?』
『べっつにー』
『あはは、相変わらず左希は、素直じゃねぇなぁ』
……素直じゃないアタシにも、彼は優しかった。
彼がアタシのことを見てくれているのが、嬉しかった。
『ねぇ、左希……左希はさ、たっくんのこと、どう思ってる?』
『? たっくんのこと? どうって……』
『その……す、好き、なのかな、とか……い、異性として』
中学生の頃。お姉ちゃんが、顔を真っ赤にしながら聞いてきた。
そのとき、アタシは思った。ああやっぱり……と。
お姉ちゃんは、中学でもモテた。なんというか、守りたくなる感じが男の子の気をひいたのだろう。
告白されることもあった。それを全部断っていた。
それは、なぜか。答えは、一つだった。
『まあ……幼馴染としては、ね』
なんであのとき、素直になれなかったんだろうと、後悔してももう遅かった。
いや、アタシがお姉ちゃんのことをわかるように、お姉ちゃんもアタシのことがわかったはずだ。
だから、もしかしたらこのやり取りに意味はなかったのかもしれない。
だって……
『あの……私、ね。明日。たっくんに告白しようと思うの』
『……! ……へ、へぇ……そうなんだ』
『……いいの?』
『なにが? いいんじゃない?』
あのとき、アタシが"言葉"にしていれば……なにかが、変わったのもしれない。
お姉ちゃんはお姉ちゃんなりに、アタシにチャンスをくれたのかもしれない。アタシが、素直な気持ちを吐き出せるチャンスを。
それを、アタシは自分で台無しにした。
アタシの答えに、お姉ちゃんは少しだけ考え込むような顔をして……ほっと、胸を撫で下ろしていた。
頑なに認めないアタシに、アタシがたっくんのことを好きなのは勘違い……だと、思ったのかもしれない。
ともかく、この答えが、アタシにとってのターニングポイントだった。
アタシは、心のどこかで思っていた。お姉ちゃんに、あの物静かなお姉ちゃんに、告白なんて無理だと。
告白は失敗して、いつも通り三人で一緒に……なんて。そんなことを、思っていた。
『さ、左希! ど、どうしよう!』
『どうかした? あ、やっぱり告白はできなかっ……』
『た、たっくんに! オーケーされちゃったよー!』
『…………え?』
まさか、高校入学の翌日に本当に告白するなんて、思いもしなかった。
知っていた。たっくんが私のことを、妹みたいにしか見ていないことくらい。知っていた。たっくんもお姉ちゃんに惹かれていたことを。
アタシは、告白現場を見てはいない。けど、光景が思い浮かぶようだ。
良かったじゃないか。大好きな人と大好きな人が、恋人になったんだ。
これほど嬉しいことはない……
『へぇ…………そっ、か。お姉ちゃんと先輩、付き合い始めたんだ。はは、おめでとう』
……その、はずなのに。
アタシに、付き合い始めたことを嬉しそうに報告してきたお姉ちゃんとたっくんを、見ていると……
『うっ、く……ぅ、えぇええええ……!』
部屋にこもり一人、泣いた。こんなに泣いたのは、初めて……
いや、両親の海外出張に着いていくかって話になったとき、嫌だと大泣きしたとき以来か。
わかっている。全部、自分のせい。
素直になれなかったのも、どこか余裕を持っていたのも。全部、自分のせいなんだ。
こんな気持ちになるなら、もっと早くに自分の気持ちに素直になるんだった。
お姉ちゃんがくれたチャンスを、私は自分で無駄にした。その、バツだ。
私への、バツだ。
『……っ』
ひとしきり泣いて、アタシは立ち上がった。
きっと、今からアタシがアピールしたところで、勝ち目なんかない。だったら、吹っ切ってやる。
本当に、吹っ切れるか。そんなの、わからない。でも、やるしかない。
アタシがたっくんを……いや、先輩を好きだという気持ちは、誰にも知られちゃ、いけないんだから。
だから……
『……先輩、お姉ちゃんとうまく、いってないの?』
『ん、うまくいってないっていうか……まあ、なんというか。あんまり、恋人らしいことができてないんだよな。どうしたもんか』
『……っ』
だから……諦め、たいのに……
どうして、そんなことをアタシに言うの。どうして、アタシの未練を断ち切らせてくれないの。
そのときだ……アタシの中に、黒い感情が、湧き上がってきたのは。
『ふぅん……じゃあ先輩は、お姉ちゃんと手を繋いだり、キスをしたり、その先のこともしたいんだ』
アタシは……絶対にやっちゃいけない、提案をした。
『ねぇ、先輩。
アタシと……シちゃわない?』』
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