美人双子姉妹の姉と恋人になった俺は、彼女の妹と禁断の関係を築く

白い彗星

第一章 変化していく関係

第1話 いいんだよ、罪悪感なんて、感じなくてさ



 ――――――



「す、好きです……! よ、よければ私と、つ、付き合って、ください!」


 ……それは、桜舞い散る春の始まりの頃。

 学校の、桜の木の下で……なんて、べたな演出で。でも、その子にとっては精一杯の告白。


 俺にこんなこと、起こり得るのか……そう考えていた。女の子からの、愛の告白なんて。

 目の前で頭を下げ、茶色の髪を揺らす少女……これが、彼女が勇気を振り絞ったものだということは、俺にだってわかる。


 一世一代……といったら大げさかもしれないけど。これがいたずらでもなんでもなく、彼女にとって本気の告白であることは、疑いようがない。

 だから本気で応えるのが、俺の誠意だ。


「嬉しいよ。俺は……」



 ――――――



「……くふふふ」


「なーに笑ってるんですか、先輩」


「わっ!?」


 約三カ月前の出来事を思い出し、笑っていた俺荒蒔 辰あらまき たつは、背後から声をかけられ、肩を跳ねさせる。

 振り向くと、そこには……にひひ、といたずらっ子のような笑みを浮かべる、女の子がいた。


 声で彼女だとわかったが、顔を見てやはり彼女だったかと、確信した。


「まったく、いきなり話しかけるのは心臓に悪いからやめてくれ。左希」


「ごめんなさーい」


 謝りながらも、まったく反省した様子を見せない女の子。

 彼女は、俺の背後から隣へと移動し、歯を見せて笑った。


 愛嬌のある顔だ。正直、男なら誰だって見惚れてしまうだろう。


「でも仕方ないじゃん。先輩が気色悪い顔して笑ってたんだから」


「き、気色悪いは余計だろ!?」


 彼女……晴嵐 左希せいらん さきの言葉に、俺はどきりとした。

 気色悪い……かはともかく、こんな道端で笑っている姿を不審に思われるのは、当然かもしれない。


 左希は、俺の幼馴染だ。年は一つ下で、活発な性格をしている。

 昔から一緒にいることもあり、年は違うが気にせずタメ口で話していた。だが、ある時を境になぜか、左希は俺を『先輩』と呼ぶようになった。

 昔は『たっくん』と呼んでいたのに。


 茶髪のショートカットに、ちょっとくせっ毛がある。

 着用しているセーラー服は、俺が通っている高校のもの。めでたく、この春に合格したのだ。


「というか、待っててくれてもよかったんじゃない? せっかく家が隣同士なのに……

 あ、それとも……"二人きり"で歩くのは、気まずいとか思ってたのかな?」


「っ……」


 図星を突かれて、俺は顔をそらしてしまった。

 彼女の笑みが、さらに深まる。


「ま、いいけどー。それはともかくとして、あんな顔他の人に見られてたら、えらいことになってましたよー。

 『B組の荒蒔くん、登校中に笑っててキモかったんだけどー』って」


「それは……きついな」


 くくっと笑う左希は、どこか真に迫った感じだ。

 実際、朝からそんな陰口を言われたら俺のメンタルが持ちそうにないので、左希に助けられたとも言える。


「で、いったいなにを妄想、もとい想像して笑ってたんですかー? ま、だいたいの想像はつくけど」


「妄想も想像もしてない。

 ……ただ、あのときのことを思い出してただけだよ」


「……ふーん」


 どれだけ時間が経とうと、あのときのことを思い出すと、俺の中でニヤニヤがとまらなくなる。

 三カ月経った今でも、鮮明に思い出せるのだ。


 あのときの……あの、愛の告白を!

 その告白をしてきたのが、なにを隠そう隣を歩いている、左希……


「あ、たっくん、左希。おはよう」


「! う、右希。お、おはよう」


 また思い出しタイムに突入しようとしていた俺は、聞き馴染んだ声に話しかけられ、思考を中断させる。

 見れば、すでに学校の校門に着いていた。


 そして、俺たちに声をかけてきたのは……校門あたりに立っている女子生徒。右腕に、風紀委員の腕章をつけている。

 俺の幼馴染であり、左希の"双子の姉"である、晴嵐 右希せいらん うきだ。


「お姉ちゃん、アタシとは家でも挨拶したでしょ」


「ふふ、そうなんだけどねー」


 晴嵐 右希せいらん うきと、晴嵐 左希せいらん さき。この二人が、俺の幼馴染であり……

 左希の姉である右希が、俺に告白をしてきた張本人だ。


 高校入学日の翌日、桜の木の下に呼び出された俺は……右希からの、告白を受けた。

 そして俺は、それを承諾した。


 晴れて俺たちは、幼馴染から恋人同士へと、関係を変化させたのだ。


「朝早くから、風紀委員の仕事お疲れ様。右希」


「ありがとう、たっくん」


 右希は、俺のことを『たっくん』と愛称で呼ぶ。少々恥ずかしいが、右希がそう呼びたいなら断る理由はない。

 左希も昔は、俺を『たっくん』と呼んでいたものだが、今では『先輩』呼びだ。


 風紀委員である右希は、朝早くから登校し、こうして生徒たちの登校具合をチェックしている。

 そのため……今日は、左希と二人で登校することになった。



『"二人きり"で歩くのは、気まずいとか思ってたのかな?』



 左希の言葉が、頭の中でリピートされた。


「たっくん、どうかした?」


「! な、なんでもないよ!」


 ふと、右希の顔が目の前に近づいてきた。

 反射的に、のけ反ってしまう。


 右希と左希は、一卵性双生児だ。顔立ちはよく似ていて、ぱっと見見分けがつかないほど。

 だが、ショートカットの左希に対して、右希はロング。性格も、活発な左希とは対称的に右希はおとなしめだ。


「お姉ちゃんと登校できなかったのが、残念だったんだよねー先輩」


「さ、左希!?」


 俺を心配してくれた右希。彼女になにか返事をしなければと考えていたところ、左希が口を挟んだ。

 俺の背後から顔を覗かせ、肩に手を置いた。


 距離感が近く、背中に柔らかなものが押し当てられた。


「え、そ、そっか。や、やだもーたっくんったら」


 しかし、右希は俺たちの距離感に気付くことはなく……いや、気付いてても気にしていないだろう……手を頬に当て、笑顔を浮かべた。

 その笑顔は、左希とはまた違った印象を抱かせ、男子の視線を集めるだろう。


 嬉しそうな右希を見ていると、俺も嬉しい……はずなのに。

 胸の奥には、チクリとしたとげのようなものが、刺さっていた。


「ごめんね。でも、明日は一緒に登校できるからね」


「……あぁ。楽しみにしてるよ」


 それから俺たちは、軽く言葉を交わして……別れた。

 右希との会話は、楽しい。そのはずだ。


 けれど、それと同じくらいに、俺の中には……


「そんな顔しないでよ先輩。悪いのはアタシなんだから。

 いいんだよ、罪悪感なんて、感じなくてさ」


 隣で歩き、にっと笑う左希の顔を……俺は、直視できなかった。

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