就職した職場が秘密保管庫なのは秘密。

代 居玖間

下っ端司書官たちの、ちょっとしたお仕事風景




 大陸中央部に位置する小国の、そのまた中央部にある国立大図書館。

壮大な建物と古い歴史をもつそれは、建国以前から存在していた遺跡を改築改造してつくられたものなのだとか。

いにしえの城跡とか神殿跡だとかと云われている地下建造物の地上部分に増改築を繰り返し、今では大陸一の大規模建造物群となっている。

管理している小国のみならず大陸各地のありとあらゆる書籍や資料が収容されるその場所は、大陸中の情報が凝縮され調査研究するための学術研究施設といった側面も併せ持っていた。

とくに魔法魔術に関する蔵書は無いものがないと言われるくらいで、魔法を志す若者たちは“困ったときには大図書館を訪ねよ”と教えられるほどの充実ぶりなのである。


「有名な埋蔵文化財包蔵地まいぞうぶんかざいほうぞうちが職場だなんて夢のようです」

「大陸中の書物に囲まれた職場で働けるのは光栄です」


新入りの職員は、だいたい第一声の挨拶がこんな言葉になるわけで。

魔法や書物好きと歴史愛好家にとっては憧れの場所といった具合なのだった。




 職務に就いて数年の下っ端司書官ししょかんであるアルフレドは、本日も後輩のフェルナンドとともに蔵書管理に勤しんでいた。

午前中は部下である彼と書架の整理整頓……午後はフェルナンドに書架を任せて、アルフレドは一人で傷んだ本や資料の修理修復を。

ときには国の偉い人たちや高名な学者先生の要望に応えるべく、資料集めから文書作成などの雑用なども熟していたりする。



 この春に司書補ししょほとしてアルフレドの下に配属されたフェルナンド。

彼は午前も午後も、それこそ朝から晩まで書架の整理整頓を請け負っている。

「うううぅ。僕、本が大好きで図書館に就職を決めたんすけどね、ちょっと後悔してます。来る日も来る日も書架の整理整頓。わりと力仕事だし、やってもやっても終わりがない。毎日がエンドレス整理整頓……もう、嫌になりそう〜」

まあ、大の本好きでも弱音を吐くほどに本だらけなのが図書館である。

膨大な数の蔵書たちは貸し出されれば返却されて、返却されれば棚に戻す必要があるわけで。

それが図書館の代表的でよく知られている循環、流れというものなのだろうけれども。

「近代魔法技術が発達したこの時代に、本の整理が手作業ですよ。よりによって、分類分けから棚に戻すのまでもが全部手作業。面倒くさいし時代遅れにも程があるってもんです」

ブツブツと文句を垂れ流す後輩に、苦笑を漏らすアルフレド。

「気持ちはわからないでもないけれど、魔法技術は万能じゃないからね。余程の術者じゃなければ正しい位置に正しい本を配置するのは難しいだろうし、消費魔力だってどのくらいかかることか。君が優秀な魔法使いなのは知っているけど、本を傷めずに取り扱うのは繊細なコントロールも要るからね……術を極めれば、将来的にはもしかしたら魔術での作業許可だって貰えるかもしれないが。まあ、魔術も手作業も、どちらにせよ地道に頑張るしかないだろうよ」

先輩の言葉に眉毛を寄せて、ウヘェと声を漏らしうなだれる新米司書補。

二人は手際よく沢山の本たちをあるべき場所へと導いてゆくのだった。




 

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