ゼロの軌跡(白の系譜)

仲仁へび(旧:離久)

プロローグ

第1話 普通の人間



 かつて、一番目の白の世界が語られた。

 その白の世界は、全てが無に還り、誰も救われる事なく、何の意味もなく終わった。

 登場人物たちは、全て余すことなく、不幸になり。

 その世界に生きる者達は、一人残らず死滅した。


 誰かがその箱庭を容易し、登場人物と舞台を整えた。

 その誰かの目的は、器を作り出す事だった。


 しかし、彼の目的は実験が終わった今でも、果たされていない。

 だから、次の舞台が用意されるのは必然だったのだろう。


 彼はまた繰り返す。

 語る必要のない物語を。

 何の意味もない物語を。

 報われる事のない物語を。







 何もない空間が広がっている。


 ゼロという数字が飛び交っていて、意味が分からない。


 これは一体なに?


 私は首を傾げた。


 電子空間を泳ぐ私には分からない事だらけ。


 でも別にいいかな。


 きっと、それでいいかな。


 分からなくてもいい。


 分からないままでも、困らない。


 私は電子空間を泳ぎ続ける。


 好きなときに、


 好きな場所へ。


 ああ、こんな生活がずっと続けばいいのに。


 きっと、ここより良い場所なんてないわ。







 私は、普通の人間。


 特別な人間なんかじゃない


 だから異常な物語に巻き込まれてしまっても、何もできない。


 私は無力だ。


 ただの無力で普通な人間。


「いってきます!」


「いってらっしゃい」


 でも、だからって舞台だけ整えられても困る。


 私は、そんな異常な舞台には順応できない、ただの、普通の、小さな、無力な人間なのだから。


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