仮面ランナー

光河克実

 

 悪の秘密結社シン・ショッカーに改造人間にされた十文字タケシはバイクも運転免許証もないけど全力疾走すると正義のヒーロー・仮面ランナーに変身するのだ。


 最終回、幾多の怪人を退け遂に敵のアジトを突き止め、全力疾走する十文字タケシ。すると風を受けてたちまち仮面ランナーに変身した。

そして待ち受ける覆面マスクの戦闘員たちをなぎ倒しアジトの潜入に成功した。

「この奥の部屋に悪の秘密結社シン・ショッカーの首領がいるに違いない。いくぞ!」

説明的な独り言を呟きランナーキックでドアをけり壊した。

「やはりここにいたか!」

ランナーがそう叫ぶ声に呼応せず、さらに奥の応接間でナチスの将軍姿の首領と思しき三十才手前ぐらいの男が低姿勢でスーツ姿の男と話し込んでいた。

「税金未納が十年分ってどういう事ですか?」

「だって国に税金を納めてるっていう時点で秘密の組織じゃない気がして。・・・」

「でもここは日本だからね。義務でしょう?国民の。」

「すみません。・・・」

「それに、こんな組織を作っておいて登記簿もないってどういうことなの?」

「え、まぁ、一応、秘密結社ってそういうものかな・・・なんて。」

「あんたねぇ、さっきっから秘密、秘密ってここは日本。法治国家なんですよ。」

「はい。」

「大体この土地、どうやって手に入れたの?」

「あ、それは亡くなっ祖父の名義の土地でして。けして奪ったとかではなくて、ですね。相続です。」

「なんだ。あんた地元の人間か。」

「ええ。まぁ。」

「ひょっとして中学校は三中?」

「はい。」

「なんだよ。俺の後輩じゃん。」

「じゃん?・・・」

ここで仮面ランナーに気が付いた首領の男が「一寸スミマセン」と小声で相対する男に言うとランナーの所に行き、やはり小声で囁いた。

「ごめん。今、ちょっと取り込んでいて。」

「そんな感じだね。税務署の人?」

「うん。国税局。」

「あらら。なんで分かっちゃったの?」

「マイナンバーカード。申請して。」

「ああ、あれ、いろいろ紐づいてるから。」

「うん。まぁ、そんなわけで。すまんね。」

「いいよ、いいよ。こちらから電話する。」

「そうだね。じゃ。」

お互い気まずいムードの中、ランナーは帰路についた。

マイマンバーで個人情報が管理される社会で秘密を持つことは難しいのだった。


                                  了




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