#09 村長ジン・ロウ


 「私は、村長のジン・ロウと申します」


 村長が自己紹介をすると、三人も簡単な自己紹介をした。村長ジン・ロウは勇者たちを歓迎し自宅に招き入れてくれた。村長は引き出しからガサゴソとなにかを取り出し、旅に役立ちそうな道具や薬などを勇者ケンジャノッチに渡した。

「え、いただいていいんですか?」

「旅に備えは必要でしょう。そうだ、よかったら夕飯を食べていきませんか?」


 ウラギールは少し遠慮しようと考えたが、マトハズレイは食い気味で感謝の言葉を述べた。


 勇者ケンジャノッチたちの前には、ここ数日食べたことのないような量の食べ物が並べられた。ケンジャノッチが申し訳なさそうに感謝を述べると、ジン・ロウは「年をとると、こういうのが楽しいものなのですよ」と笑った。


 

 なんて優しい人なんだろう……世の中にはこういう人もいるんだ……



 マトハズレイはガチャガチャ物音をたてながら、お世辞にも上品とは言えない様子で口に食べ物を運び続ける。

「マトハズレイ、もう少し上品に食べたら」

「いや、私の計算ではこれが最も効率的な食べ方なんだ! 凡人のウラギールには理解できないかもしれないがな!」


 村長ジン・ロウは笑った。元気な人を見られるのが幸せらしい。というのも、ジン・ロウは最近娘を失ったらしく、孫もどこかへ行ったきり帰ってこないらしい。ウラギールが詳しくききたがると、ジン・ロウは「勇者様たちにこんな話をしてもいいのかわかりませんが」と前置きし、ある事件について話し始めた。


 ここジンロー村では、毎晩ひとりずつ村人が殺されているらしい。何人かの村人がオオカミの姿を見たと証言しており、噂では人間に化けているオオカミ、つまり人狼(じんろう)が人間を襲っているのではないかというのだ。ウラギールが話をまとめる。

「つまりその人狼が昼は村人に化けていて、夜になるとオオカミの姿に戻り村人を襲っていると……」

マトハズレイも知的な眼差しで口を開く。

「なるほど……つまりその人狼が昼は村人に化けていて、夜になるとオオカミの姿に戻り村人を襲っているわけだな」

「マトハズレイ、それはいま私が言った」


 ジン・ロウによると、娘はオオカミに殺され、孫は犯人を見つけ出すと言ったきり帰ってこないらしい。ケンジャノッチは力になりたいと申し出た。村長ジン・ロウは「いえ、勇者様たちはお忙しいでしょう」と遠慮したが、ウラギールも協力したいと申し出た。マトハズレイは相変わらず下品に食事をむさぼっていた。


「それでは勇者様たちには誰が村人に化けた人狼なのか見極めていただけないでしょうか。これからこの家に人狼の可能性がありそうな村人を集めます。それぞれの話をきいて人狼を見つけ出してください! そしてその憎き人狼を倒してください!」


 ケンジャノッチたちは同意した。ジン・ロウが付け加える。


「ちなみにこのジン・ロウはもちろん人狼ではないので安心してください」




 少し時間が経ち、容疑者と思われる人物が3人、別々の部屋に集められた。

「人狼の疑いがある容疑者を3人集めました。誰が人狼か探ってください。容疑者が逃げないように監視も2人つけました」


 一人の男がケンジャノッチたちに挨拶する。

「はじめまして勇者さん、俺は監視を任されたツギノヒガ・イーシャ。もし人狼が襲ってきたらボッコボコの返り討ちにしてやりますよ! はははは!」

 ツギノヒガ・イーシャは声を落として続けた。

「ところで勇者さん、女を振り向かせるいい方法を知りませんか? 妻に内緒で貢ぎまくってるのになかなか振り向いてもらえないんですよ」


 ケンジャノッチは、さあどうでしょう、とお茶を濁した。


 ツギノヒガ・イーシャと入れ替わるように、一人の女がケンジャノッチたちに挨拶をしにきた。

「はじめまして勇者さん、私は監視を任されたオマエモカと言います。もし人狼が襲ってきても私の夫がボッコボコの返り討ちにしてくれますよ!」

 オマエモカは声を落として続けた。

「ところで、男を振り向かせるいい方法を知らないでしょうか? 夫に内緒で貢ぎまくってるのになかなか振り向いてもらえないんですよ」


 オマエモカ、お前もか。とケンジャノッチは心の中でつぶやいた。


 ケンジャノッチたちはさっそく容疑者から話を聞くため、容疑者のいる部屋に向かった。扉を開くと、そこには紫のローブをまとい水晶玉を持った老婆が座っていた。



【タダノムラ・ビートの証言】

 どうも、タダノムラ・ビートって言うわ。ここで何をしているのかって? あの村長に急に呼び出されたんだよ。私のことが好きなのかしらね? え? ふだん何してるのかって? ふだんは人間……じゃなくて土を食べて生活しているわ。土はミネラルがたっぷりって言うでしょう。人狼? ああ、ここのところこの村は人狼の話題でもちきりよ。私は人狼なんて本当にいるのって思ってるけど。たまたまみんな滑って転んで頭打ちつけて死んでるだけなんじゃないかしら。誰が怪しいか? さあ? 人狼なんていないんじゃないかとも思うけど。もし人狼がいるとすればオオカ・ミジャナイさんだと思うわ。あいつなんかムカつくし。



 ケンジャノッチたちは部屋を後にした。ケンジャノッチたちが次の部屋に入ると、そこでは髪を二つに結んだ小柄な若い女が酒を飲んでいた。



【オオカ・ミジャナイの証言】

 こんばんはぁ、オオカ・ミジャナイです。今日は村長さんがこの樽に入ってる酒を好きなだけ飲んでいいっていってくれたの! えへへへへへ! え、ふだん? ふだんは男の人にご馳走してもらったりプレゼントをもらったりして生きてるの! ジンロー? 知ってる知ってる! マジ怖いよねー! でもワケわかんないヤツが私に嫉妬してキレてる方が怖いかもー! かわいすぎるって罪なのかなー! え、誰が怪しいかって? ウラ・ナイシさんがバチクソ怪しいと思うよー! マジ挙動不審だしー! あ、そんなことより勇者さーん。私とキスしてみるー?



 ケンジャノッチが戸惑っていると、ウラギールがぴしゃりと断り部屋を出た。ケンジャノッチたちは最後の部屋に入る。そこには、小太りで背は低く、顔中が油まみれで、あごにはまるで狼の毛のようなヒゲをたくわえた男がいた。




【ウラ・ナイシの証言】

 ひ! ぼ、僕ですか! 僕はウラ・ナイシと申します! え? なにしてるかって? ひっ! ひーーっ!!! 僕はなにもしてません!! 人狼じゃありません!!! 今日は理由もわからないままここに連れてこられたんです!! 僕は人狼じゃありません!!! 絶対に人狼じゃありません!!! え? 誰が怪しいと思うかって? えへ、えへへへへ……ゆゆゆ勇者さん、ここだけの話なんですけどね……じじじ実は僕……人狼が誰だか知っているんです……えへへへへ……!!! ずずずずばり……人狼は村長ジン・ロウですよ。ぼぼぼ僕、そういうのわかっちゃうんですよ。えへへ……えへへへへ……!



 ケンジャノッチたちは部屋をあとにした。ケンジャノッチたちは誰もいない部屋に入り、そこで誰が人狼なのかを推理することにした。


 まず、マトハズレイはウラ・ナイシが怪しいと意見を述べた。彼はどう見ても怪しかった。しかしウラギールは、人狼だとしたらむしろもっと堂々としているのではないかと述べる。

マトハズレイが次に怪しいと言ったのはタダノムラ・ビートだった。彼女は妙に人狼の存在に否定的だったからだ。


 ケンジャノッチは、オオカ・ミジャナイについてはどう思うかきいた。マトハズレイは、なんかムカついたと述べた。この点、3人は同意した。ウラギールは、あまり人狼という雰囲気はしないがあの余裕っぷりが逆に怪しい可能性もあると述べた。


 結局のところ、全員怪しいと言われれば怪しいし、怪しくないと言われれば怪しくない、という結論にいたった。議論が止まりかけたとき、ウラギールが口を開いた。

「実は私……村長のジン・ロウが人狼なんじゃないかって思ってる」


 ケンジャノッチとマトハズレイは、ウラギールが言ってはいけないことを言ったかのように全力で否定をした。あんなに優しくしてくれた村長が人狼のはずはないのだ。


「ウラギール、何を根拠にジン・ロウ村長が人狼だっていうんだよ」

「根拠って言われると難しいけど、なぜかそんな感じがする」

「そんなの説明になってないよ」

「逆にふたりが村長ジン・ロウを人狼だと思わない根拠ってなに?」

「だって。村長は僕たちによくしてくれたし……なにより人狼を倒すように言ったのは村長ジン・ロウじゃないか。もし村長ジン・ロウが人狼だとすれば自分で人狼の話題を出すなんておかしいじゃないか」


 マトハズレイはそうだそうだと加勢する。ウラギールが反論する。

「もし私たちがこの村に滞在すればいずれこの村の誰かから人狼の話題をきくことになる。それならいっそ人狼自身が人狼の話題をいちばん最初に出すことで自分自身は疑われずに済むんじゃない?」

 ケンジャノッチは口ごもった。

「だいたいここにいる人狼候補だって村長が選んできたんでしょう? あたかもこの3人の中に人狼がいるかのように見せかけて」

「そんなのでたらめだよ!」

 ケンジャノッチが大声を上げた。

「なんでそんなこと言うんだよ……僕はウラギールのことが嫌いになりそうだよ……あんな優しい村長ジン・ロウが人狼なわけないじゃないか……」

「ケンジャノッチはジン・ロウが人狼だと思いたくないだけなんじゃないの?」


 マトハズレイが、二人とも冷静になれ、と議論を止める。

「ひとまず一回話を整理しようじゃないか。つまり……」

 マトハズレイは冷静に分析をした。

「つまり、村長の作ったご飯はおいしかったってことで合ってるか?」

「マトハズレイは黙って」

 ウラギールがそう言うと、マトハズレイは素直に黙った。


「ケンジャノッチは誰が人狼だと思う?」

「え?」

「確かに。ケンジャノッチは誰が人狼だと思うんだ?」

 二人の視線がケンジャノッチをさす。


「ぼ、僕は……僕が人狼だと思うのは……」




 ケンジャノッチたちは家を出て暗がりの中を歩いていた。

「ここにしよう」とケンジャノッチが言う。


「え、へへ、どうしたんですこんな人気のない場所に来て、な、なんの用ですかね……?」

 ケンジャノッチたちに連れてこられたウラ・ナイシは何かをごまかすように笑った。


 その瞬間、ケンジャノッチは剣を抜いた。




【次回予告】

 ウラ・ナイシが人狼であると結論づけたケンジャノッチたち。この答えが合っていれば今晩は誰も襲われないはず。朝になれば全ての答えがわかるはず。果たして人狼が化けていたのは……!


 次回、暗黒四天王ジン・ロウ。


ネタバレは禁止だよ。

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