秘密
白山 いづみ
「秘密」といえば「理不尽な存在」
「おい、ソーマ=ディユエッタ。《真名を掌握》する能力があると聞いたが……お前は一体、どういう奴なんだ? 俺たちの仲間になったのには、本当にこの戦いに協力したいからなのか? それとも、何か目的があるのか?」
――『何者』なんだと訊かなかいところに、ソーマは小さな配慮を感じた。
僅かな期間ではあるが、ギルドマスターであるクレイ本人が俺を仲間と認めたんだ。配慮というか、礼節ってやつかな。
さて、なんて答えよう。
公然と名乗った『吸血鬼退治屋』は行動の結果の一面であり、嘘じゃない。
俺が使っているのは、故郷で『呪術』とよばれる失われた魔法――その本質は《言霊》だ。
だから下手な嘘はつけないんだよな。
背中の大きな黒翼は、有り余った魔力が顕現したものだ。
この翼で空を舞い、《真名を掌握》し《魔力捕食》しどんな怪我も《自動治癒》する。さらには《絶対切断》の剣で軍隊を率いて敵を紙屑のように薙ぎ払う――『黒翼の殺戮王』とか『魔王』と呼ばれた存在。
うーん、改めて考えると説明が長ったらしいうえに理不尽な存在だな、俺。
うん。適当に誤魔化そう。
「故郷での肩書を捨ててきた、放浪の旅人だよ。だけどちょっと縁があって、君達を勝利に導く手助けをしたいんだ」
「ほう……じゃあ
「え? それは勿論、愛だな!」
「…………」
「――クレイさん。とにかくソーマが敵じゃない事は、確かです。たった今、その翼で俺とハーディスを助けてくれた訳ですから」
双剣士のアルヴァが間に入ってくれたおかげで、変に凍り付いた空気が動いた。
さすが、気が利くね。
俺がゼロファを庇った理由まで説明してたら長い話になるどころじゃない。これから魔女と戦いに行くってのに、昔話に付き合ってもらうのは悪いだろう。
まぁ、本当に愛だけどね!
「……わかった。最後にひとつだけ聞く。故郷に置いてきた肩書は、天使ってやつなのか」
クレイの真剣なまなざし。――正直で、可愛げのある質問だな。
ソーマは小さく笑って、大きな黒翼をスルリと消した。
「そいつは天使に迷惑だろ。ここでの俺は『世界を支配する魔女』を倒す勇者に力を与える、『黒翼の魔術師』。そう認識するといいさ」
なんとか無事仲間として認識された。今はこのくらいの距離感で一緒にいるのが丁度良いだろう。
落ち着いた戦況の場に駆けつけてきた聖女様達と合流し、魔女の居城へ向かう。
彼らが魔女を倒すことを手助けする。それが、魔女と交わした密約だ。
だけど俺はあの死にたがりの魔女に、ひとつ、プレゼントを用意しているんだ。
双剣士アルヴァ。
彼が、魔女の魂のパートナーだというのは、魂を見た時にすぐにわかった。
きっと魔女は喜んでくれるだろう。
300年も生きながらえてきたのは、アルヴァの魂に、巡り合う為だったのだろうから――。
秘密 白山 いづみ @aries0890
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