火球

@gotchan5

第1話

私は満点の夜空を見上げていた。

一つ星が流れた。

そしてまた一つ。

今夜はしし座流星群の流れ星が見られるのだ。

私は今日、定時に会社を出るとその足で電車を乗り継ぎ、郊外の小高い丘迄やってきていた。

ここは周囲に明りがなく、空は星で満ちている。

私の他にも沢山の人が期待の眼差しで空を見上げていた。

ホームレスさえも何か思い詰めた顔で空を見ている。

「あ、あれっ。見た?」

「うん、見た見た」

星が流れる度に声が上がる。

今回の流星群は7年前の流星群より沢山の流れ星が見えている。

そんな夜空を堪能しているとポケットの中でスマホが震えた。

画面を見ると課長からだ。

「ちぇっ、何だよ」

一つ舌打ちをし電話に出ると、お客から急な呼び出しがあったという。

何か緊急事態のようだから、申し訳ないがこれから行ってくれないかという事だった。

これからだって?

今夜のしし流星群の次に流星群が来るのはまた7年後だぞ。

私は、自分から客先に連絡して状況を確認しますと言って電話を切った。

なんとか明日朝一番という事にしてもらおう。

課長だってそのつもりだ。その電話を私に掛けさせたいのだ。

やれやれ。

こんな時、私の代わりに私の分身が行って仕事してくれたらいいのにと思いながら、客先へ電話を掛けた。

その時

「わー、凄い」

周囲がどよめいた。

スマホを耳に当てながら空を見上げると、見た事の無いような大きさの流れ星が地平線に消えていった。

あれは流れ星というより火球という感じだっただろう。

「くそっ、見損なったじゃないか」

せっかくこの丘迄やってきて、大物を見逃した。

電話は呼び出ししているが出ない。

「ええい、もういいや。一回は掛けたんだからな。出なかったからそれまでだ」

私はスマホを鞄にしまい、それから深夜までしし座流星群を堪能した。

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