第57話

「し、しまった…」


 セフィリアさんとルーク君は明日にでもうちに来てくれることが決まり、ひとまず私たちはその場を引き上げ、例の二人の元へと向かった…んだけど…


「うーん…完全に見失っちゃったね…」


「ううう…」


 そう、ジルクさんとノーレッジさんを完全に見失ってしまったのだった。シュルツの読みでは、しばらく同じ場所に立ち往生しているはずだろうと思っていたのだけど、さすがに時間がたちすぎてしまっていて、二人ともどこかに移動してしまったようだ。


「うーん…先に帰っちゃったのかな…?」


 私はそう考えるのが自然だと感じた。だって渡した地図もでたらめだし、売っていない物のお使いを頼んだわけだし、あの二人ならそんな事は看破して、そのまま帰っちゃったんじゃないかと思ったからだ。


「ま、まって!!もう少し探そう!!」


 しかし、諦めきれない様子のシュルツが私にそう訴え、私たちはもうしばらく付近を見て回ることにした。けれど、でたらめに探したところで見つけるのは難しそうだから、ある程度的を絞ってみる。


「例えば…どこかで休んでるとか…?」


 シュルツの考えに私も同意する。まだ二人が帰っていないと仮定して考えるなら、どこかで休んでいる可能性が高そうだ。私はついさっきルーク君と話したことを思い出し、言葉を発した。


「そういえばルーク君が、この近くにいろんなお店が集まってる場所があるって言ってたよね?」


 ご飯が食べられるお店から、着物を売っているお店、甘いものを売っているお店、お薬を売っているお店まで、なかなかに繁盛している場所が近くにあるらしい。私は聞いた話と今いる地点を照らし合わせて、目的地への方角を割り出す。


「ええと、向こうの方かな…?」


 …どうやら方角はあっていたみたいで、たくさんのお店が連なるにぎやかな場所にたどり着いた。…意外と人が多いから、いたとしても見つけるのは難しいかもしれない…二人で手分けして探そうかと考えた、その時だった。


「「あ」」


 私たちは同時に二人の姿を視界にとらえたのだった…反射的に物陰に隠れ、様子をうかがう…


「「!?」」


 …動物的な本能からか、私たちのほうに一瞬振り返るジルクさん。…私たちはとっさに顔をひっこめ、ばれていないことを心の底から祈った。

 …少しの時間をおいて、ゆっくりと二人のほうへと視線を移す。ジルクさんは相変わらずキョロキョロしているけれど、私たちの存在には気づいていないようだった。とりあえず一安心…

 と思ったのもつかの間、二人は私たちが予想だにしていなかった行動に出たのだった。


「ちょ、ちょっとあれ見てシュルツ!!!あれ!!!」


 私は二人が入っていったお店の看板を指さし、即座にシュルツに伝える。


「うそ…だろ…!?」


 二人が入っていったお店の看板には、いわゆる休憩所の文字が…!?


「まってまってよ…ということは、二人はもうすでにそういう関係だったのか…!?」


「な、何もなくああいう所に行くのはハードル高いと思うし、そうなんじゃないかな…!?」


 だとしたら、いったい私たちは何しにここまで来たのか…?

 いやそれ以前に、私たちはそれこまで進展している二人の関係に、今まで全く気付いていなかったってことになるんじゃ…?

 二人の距離を近づけようとこの作戦を実行したのに、もうすでにゼロ距離だったなんて…!


「…ひ、ひとまず今日は帰ろうか…」


「そ、そうだね…」


 …私たちは互いに顔を見合わせ、一時撤退を余儀なくされたのだった…


 …結局2人の帰宅後に話が聞けるはずもなく、この日の謎の解明にはまだまだ時間がかかりそうだった…

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