第54話

「…それにしてもこの地図、本当にあってるのか…?全然目的地に近づいてる気がしないんだが…」


「うーん…あの二人の事だから、間違ってるとは思えないんだけどなぁ…」


「…」


「…」


 …いま私たちが何をしているかというと、私とシュルツは近くの茂みに身を潜めて、ジルクさんとノーレッジさんの尾行をしている真っ最中。…一体なぜこんな事になっているのかというと、事の発端は昨日までさかのぼる。


――――


「ソフィアソフィア、ちょっとちょっと」


「??」


 私が廊下を歩いていた時、不意にシュルツが自室の扉の隙間から小声で言葉をかけてきた。…なんだろう?二人きりの秘密のお話かな…?

 私はその手に招かれるまま、シュルツの部屋へと足を踏み入れた。私が部屋に入ってから、シュルツは何度も周囲をキョロキョロと見まわして、誰もいないことを確認したのちに扉を閉めた。


「そんなにキョロキョロして、一体どうしたのシュルツ?」


 言葉をかけられたシュルツは腕を組み、どうしたものかといった表情で私に答える。


「いやねソフィア、あの二人見てどう思う?」


「あの二人?」


「ジルクとノーレッジさ」


 意外な人物の話題が上げられたことに、私は少し拍子抜けする。


「うーん、すっごくお似合いのコンビだと思うけど…」


「でしょでしょ??ソフィアもそう思うよね??」


 決して私たちがはしゃいでるだけというわけではなく、完全に二人の態度からもばればれなのだ。


「本人同士も、相思相愛にしか見えないし…」


「だよねだよね!!それでソフィアと相談したかったんだ!」


「??」


 その後シュルツは、自身の考案した二人の距離を縮める作戦を私に披露し始めた。


――――


 シュルツの作戦その1、売っていそうで売っていない物を売っていると言い張って、その買い物を二人に頼む。その2、あえて目的地周辺がでたらめな地図を二人に渡す。それもサイズのかなり小さなやつ。その3、これらの作用で二人きりの時間を増やす。その4、いい雰囲気になったのを見届けてから私たちは引き上げる。たったそれだけ。

 余計なおせっかいにしかならないんじゃないのかなと私は思ったけれど、最近忙しい業務ばかりであまり遊べていなかったし、あの二人にはいつも私たちの関係をいじられていた。ゆえにたまには仕返しするのも悪くないかなと思い、私はシュルツに付き合う事にしたのだった。


「で、でもほんとにこれでうまくいくのかなぁ…?」


 まわりくどすぎるというか、もっとシンプルな事でもよかった気もするけれど…


「うーん、思いついた時は完璧な作戦だと思ったんだけど、何か足りなかったかな…?」


 そう言いながら、右手を顎下に置いて考えるポーズをするシュルツ。…かつて隣国の襲撃を退けたというその軍作戦参謀ぶりの知能は、一体どこへやらといった様子…


「あ、見てソフィア!小さな地図を二人でのぞき込んでるから、めちゃめちゃ密着してるよ!」


 そ、そんな二人とも子どもじゃないんだし…


「そ、それだけじゃ…あ、あれ?」


 …よく見てみると二人とも、なんだか顔が少し赤くなってるような…?あ、あの二人ってそういう感じなの!?

 …そういえば前に、二人の手が触れ合っただけでお互い顔が真っ赤になってたことがあったっけ…

 ならなら、あのいかにも経験豊富そうな二人が実は初心だったりしたら、も、もしかしてこの作戦、あの二人にはなかなか有効なんじゃ…?

 それにさっきから二人が何か言ってる…私たちは全神経を両耳に集中し、二人の会話を聞き取ろうと努める。


「目的地どこなんだ…って、あ、あんまりくっつくなって!」


「み、見えないんだから仕方ないじゃないのジルクちゃんっ!」


「だ、だからジルクちゃんって言うなと何度言えば!」


 …な、なんだか思ったより二人ともいい雰囲気かも…

 私がシュルツにその旨を伝えようとした時、事件が起こった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る