私が若き次期皇帝と婚約したことを知ったら、かつて私を虐げていた元婚約者である公爵様とその妹はどんな顔をされるのでしょう?

大舟

第1話

「フランツお兄様ぁ~、またソフィアお姉様が私を犯人扱いしてきますの…」


「大丈夫だエリーゼ。僕がちゃんと注意しておくからね」


 ああ、何度この会話を耳にしてきただろうか。

 私がフランツ公爵と婚約したのは、今から一年ほど前のこと。まだ正式に結婚はしていないものの、このまま周りの貴族の反対などがなければ婚姻は成立することになる。


「ソフィア!全く、何度言ったらわかるんだ!エリーゼはすごく繊細だから、言葉には気をつけてくれと何度も言っているだろう!何かあったらどうしてくれる!」


「はい、、ごめんなさい、、」


 なぜ一年たった今も結婚が成立していないかというと、全てあの義妹、エリーゼに原因がある。彼女は何かあるとすぐに他人のせいにしては、自分は被害者面をする、所謂悲劇のヒロイン女なのだ。兄のフランツ公爵はそんな妹を溺愛していて、彼女を責めることなど一切しないどころか、かえって彼女に何か買い与えたりしている始末だ。

 彼女の被害に遭っているのは、私だけではない。周辺貴族の皆もまた、彼女のその性格によって振り回されている。

 数ヶ月前の痛ましい記憶だけれど、エリーゼがシガー伯爵の令嬢の悪口を言っている事を本人が知り、エリーゼに抗議した所、エリーゼはしらを切り、ついには勝手に泣き出してしまった。それを知った兄、私の婚約者であるフランツ公爵は大激怒し、伯爵令嬢を四六時中叱咤し、さらには圧力をかけて彼女を自殺に追い込んだ。当のエリーゼは悪びれる様子を見せるどころか、邪魔者がいなくなってすっきりした顔をしている始末だった。


 もう、嫌だ。もう無理だ。実家に帰ろう。家族のみんなもきっと分かってくれる。

 もともと無理な話だったんだ。平民出の私なんかが貴族様と結婚するなんて。こんな公爵に一度は心奪われてしまうような、人を見る目のない自分なんかじゃ、この先やってもいけない。本当になぜこんな男と婚約する事を選んでしまったのか、後悔しかない。これから先死ぬまでこの生活が続くのかと思うと、私まで飛び降りてしまいたくなる。

 そんな、ある日の事だった。またいつものように、エリーゼがフランツ公爵に泣きついた時のこと。


「もういいよソフィア。君がそんなにエリーゼをいじめるんなら、仕方ない。婚約の話は無しだ。もう出て行ってくれ」


 全く話が飲み込めない。い、いえそもそもその女が先に、、と言いそうになったところで言葉を飲み込む。いや、これでいい。今なら、出て行くことができる。平民の私から婚約破棄を告げることは許されないけれど、今は違う。向こうから言ってきている。

 どう返事をするか、私の心はもう決まっていた。

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