真夜中で誰もいない公園。

 魔法使いの二人は何処からともなくなった鐘の音を合図に姿を現した。


「ヤッホー♪」

「弟子はどこだ。」


 久しぶりに会うというのに先輩は冷徹な目で私を見つめている。


「うん。その目よ。その目。ねぇこっちに戻る気はないの?」

「あと百年したら戻るわ。」

「それじゃあ、遅いのよ!!」


 突然彼女は声を荒げた。


「結界魔法!」


 先輩は公園の外の住民に被害が出ないように先輩自身ではなく、公園の領域に結界を出した。


「なんであの弟子君がそんなに良いんですかァ!」


 いつものロリ体型から大人な艶っぽいお姉さんに変化すると雷魔法、水魔法、風魔法、火魔法の奥義魔法を連続で先輩に放った。


「オイオイ、お前らしくないな。そんな乱雑に放ったら距離を詰められるって学校で教えたよなァ。」


 一応言っとくけど、これは先輩がおかしいだけ。

 例えるなら50メートル以上も距離を離れた一直線上の通路で機関銃を撃たれてそれを全て避けて狙撃手を殴りに行くのと同じだ。

 それをできて当たり前というのだから先輩は本当に天才だ。


「えぇ、先輩の一言一句、一挙一動全て忘れた日はないですよ!!」


 師匠が距離を詰めてくるルートを予測し、彼女はそこにとびっきりの魔力を込めて忘却魔法を放った。

 そして師匠はその場に倒れた。


「やった...やったわ!これで先輩は完全に私のものよ。今すぐにでもあっちに行って挙式しましょうね。あの泥棒猫は後で消しますので安心してくださいね♪」 


 彼女の狙いは愛しの先輩に忘却魔法をかけて僕と師匠の15年間の記憶を消した。

 彼女にとっては馬に蹴られるべき存在だったらしい。


「拘束魔法。」

「え?」


 彼女から空気が抜けたような声が漏れ出た。

 

 瞬時に拘束魔法を避けたが、今のは絶対に先輩の魔法だった。


 ありえない。その思考だけが脳に溢れた。

 通常、忘却魔法を受けるとしばらくは記憶があやふやになり記憶の整理のために眠るはずなのだ。

 今だってそこで寝ている。

 

 なのに、ありえない。ありえない...

 いや、今この先輩が先輩じゃなかったら...


「正解だ。拘束魔法をブロッサム・コンバットに。」


 師匠がまるで最初からそこにいたかのように現れるとロリ体型の彼女の動きを封じた。


「先輩が二人...いや私の名を知っているという事は私が忘却魔法を放ったのは...」

「僕ですよ...。イテテ。」

 硬い地面で寝たふりをしていた僕は体を起こした。


「なんで!?確かにあの時の魔力は先輩のだった。」

「後でクリスさんにお礼言わなきゃな。」


 彼女に誘拐されそうになった時、咄嗟に僕自身に封印魔法と透明化魔法を使って隠れた。

 そのまま見つからなかったら封印が解かれずにそのまま老衰で死ぬが師匠を信じての行動だった。

 まぁ、師匠も一瞬だけ僕の存在見つけられていなかったけど。あの文章を読んで感情が昂ったおかげで五感が冴えて見つけるってバトル漫画だろ。


 師匠からもらった卒業祝いは10分間、記録した魔力を元にその人になれるネックレス型の魔道具だった。

 そして忘却魔法と魔道具が反発し合うことで互いの効果を打ち消し、僕の記憶は保たれた。


 クリスさんは恐らくこの一連の流れを知っていたのだろう。

 あの人は親バカだから娘が一番幸せになるルートになるように未来を見て周りの人物を誘導する。そしてその一環として娘と親しい僕を助けることにした。

 心優しい人なのだ。

 

「っていうか師匠。本名知ってたんですか?」

「ああ、彼女から直接な。」


 魔法使いにとって本名を知られるのは危険だ。なぜなら名を知り、詠唱に追加するだけで必中の効果が追加されるからである。

 そして魔法使いが本名を伝えるという行為は告白に近い意味を含む。

 

 先に言っとくけど師匠は僕に対してそんな気持ちないからな。


「ふふ。ハハッハハハハ。そうですか。そうですか。それでどうしますか?私を警察に連れて行きますか?」


 師匠に全て知られてしまった彼女は目が据わっていた。


「ブロッサム、悪かった。」


 師匠は頭を下げた。


 

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