昼 弟子
「ヤッホー。お弟子ちゃん♪」
師匠と入れ替わるタイミングで魔女がやって来た。
こいつは小学校低学年の見た目でロリ声にも関わらずドス黒く年季の入った魔力のせいで若く見えない。
人間一番重要なのは中身だとかいうやつがいるけど少なくとも魔法使いには当てはまる。
「師匠ならここにはいませんよ。」
俺は引っ越しの準備を続けながら言った。
「その事を聞きにきたわけじゃないのわかるでしょ。約束は守ってくれるよね。」
「やっぱりやめました。」
「は!?」
せっかくの見た目が大きく歪んだ。
「師匠は確かに元世界トップの魔法使いだったのかもしれません。」
「そうよ。あの人はここにいて良い魔法使いじゃないの!だから、」
この魔女と約束をしたのは『師匠を魔法使いの世界に帰らせる事。そして僕との記憶を消させること。』
去年の春、確かに僕の意思で彼女の意見に賛成した。
それ以降、何気なく師匠を帰らせようと時には罠を仕掛け、誘導したりしたけど無理だった。
「僕があなたに賛成したのは師匠には早く子離れするキッカケが欲しかったからです。」
師匠は全ての罠を踏んで起動させて笑顔で僕についてくる。一種のホラーだよ。
「はぁ!?子離れって。あの人がそんな理由でここに留まっているっていうの!?あの人はね『鉄壁の会長』って呼ばれるほど無慈悲に冷静に魔物を処理をして数多の魔法使いを護ってきたのよ。」
でもって罠のことを毎回何も言わずに許してくれる。
だけどそんな優しい師匠は俺よりもずっと長く生きる。現にこいつも三百歳とかなりの婆さんだ。
「師匠は僕と一緒に寝てほしいってよく布団に潜り込むし、去年習った結界魔法でようやく師匠に邪魔されずに一人っきりでお風呂に入れましたし、昨日の夜中だって」
師匠は時々夜中に俺の頭を撫でる。
そして「弟子は私より長生きして欲しいな」と寝言で呟き泣く。
「そんなわけない。そんなわけない。そんなわけ...」
僕との別れがそれほど寂しいのならいっそのことさっさと別れて彼女の提案通り忘却魔法で綺麗さっぱり消してもらった方が良いんじゃないかって。
「でも、ふと思ったんですよ。」
「アァン!?」
彼女の中で師匠の理想像が崩れかけ、鋭い目で睨みつけてきた。
「師匠はこれからも生き続ける。それならあの時の、今の恩返しとして僕が可能な限り生きて、僕との時間を楽しく、鮮やかな物にして欲しいなって。」
そう思えたのは今日のあの言葉。
師匠はいつまで経っても僕を『
なら僕も一生『師匠』と呼び、慕い、守られよう。
そうすることで師匠に恩返しできるのなら。
「ハハハハ。そうね。人間っていっつもそう。もう良いわ。強硬手段よ。」
僕の部屋は彼女の魔法で台風が通った跡みたいに散らかった。
「 。」
僕の言葉は突風で消え去り、僕の存在もこの部屋から消えた。
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