第23話 エピローグ(1)

 僕は久しぶりに、部屋の外へ出た。


 多分、三年ぶりの外出だ。そして、もうこの地へは、戻ってこないだろう。


 なぜなら、僕は、これまでの生活にピリオドを打ったのだ。そして、生活をリスタートするために、僕はこの部屋から、そして、この東京という街から離れることになった。


 僕の荷物は、スマホだけ。それ以外は、必要なかった。


 僕は、生まれ育った家へ帰ることになった。部屋から外へ出た途端に僕の体に出た斑点は、今も体中に出ている。どうやら極度のストレスによる発疹のようだ。


 そんな僕を一人にしておくことは出来ないと、両親は僕の帰郷を強制的に決めた。


 両親と共に故郷へ向かう電車に乗る。電車に乗っている間も、僕は落ち着かなかった。不安だった。恐怖だった。逃げ出したかった。


 そんな僕は、両親に連れられて、なんとか久しぶりの故郷へと帰った。久しぶりに見た故郷の景色は、何も変わっていなかった。高く青い空に、懐かしさと安堵感が一気に込み上げてくる。


 駅からタクシーに乗り、自宅へと向かう。その間、僕はずっと窓の外を眺めていた。何も考えずに、ただ流れる風景だけを見ていた。


 三年ぶりに自分の部屋に戻ってくると、緊張から解放されたのか、体が重くなり倒れ込むようにベッドに横になった。そのまま死んだように眠った。


 目が覚めた時、もう外は暗くなっていた。随分眠っていたみたいだ。体が軽かった。体中に出ていた発疹も、何もなかったかのように綺麗に消えている。


 僕は部屋の中を見渡した。昔から使っている古びた学習机と本棚。クローゼットの中には、高校時代に使っていた教科書などが詰まっている。壁に貼ってあるのは、昔好きだったアイドルのポスター。小学生の頃から集めてきた小さなフィギュアの数々は、窓際に雑然と置かれていて、なんだか散らかっているように見えた。


 子供の頃のままの部屋だと思った。ここにはこの三年、僕が当たり前のように使っていたものは、何一つない。パソコンとスマホは、母が管理している。ネットショッピングもオンラインゲームもできない。ワンクリックで食べ物が届くこともない。


 階下から両親の笑い声が聞こえる。テレビでも見ているのだろうか。そんな他愛もない生活音に、僕は、ふっと笑みをこぼした。


 僕だけの空間は、心地よかったはずなのに。今は、子供っぽいこの空間の方が居心地がいいと思うなんて、不思議だなと感じた。


 きっと僕は、誰かの温もりを求めていたのだろう。

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