第12話 11.2021年 8月

【第四次緊急事態宣言】


 『eスポーツ研究会』の仲間たちは、今年も、夏休み中の外出を予定しているようで、僕にも、お誘いの声がかかる。昨年の悲劇を繰り返さないように、今年は、近場の海へ日帰りで行くという事だったが、僕には、行くという選択肢はない。


 いくら近場へ日帰りと言えど、外出に変わりはない。僕が断ると、友人たちも、はなから期待などしていなかったという具合で、早々に外出の誘いは来なくなった。


 昨年の夏休みと同じく、毎日データ入力のバイトに明け暮れる日々。しかし、昨年と違うのは、仕事に対するモチベーションだ。


 僕は、この夏も、がむしゃらに働いた。もちろんお金のためである。彼女の金銭事情を知ってしまって以来、僕が、彼女にできることはなんだろうと考え続けた結果だ。


 学生の僕にできることなど、限りがある。しかも、僕は、徹底して家から出ない生活を送っている。そんな僕では、大学へ行くことすらままならないという、彼女の厳しい生活を近くで支えてあげることなどできない。今の僕にできることは、資金援助くらいだろう。


 もちろん資金援助のことは、彼女には言っていない。伝えれば、彼女は断るだろうと思ったから。彼女がピンチの時に、すぐさま助けられるようにと、それだけを願って、僕は働いた。


 その頃、巷では、殺人ウィルスの蔓延により、1年の延期を余儀なくされたオリンピックが、ウィルス収束を見ずに、強行されることになった。


 特段オリンピックに興味のない僕には、開催でも中止でも、どちらでも良かったのだが、彼女は違った。


 せっかく日本で開催されるのだからと、ミーハー心丸出しで観戦チケットゲットに向け、尽力したらしい。その甲斐あって、どうやら、サーフィンの観戦チケットを手にしたようだった。


 しかし、土壇場になって、競技の観戦中止が発表されて、彼女はしばらく悪態を吐き続けていた。


 毎日のようにマイク越しに吐かれ続ける悪態に僕が辟易とし出した頃、突然、彼女の機嫌が良くなった。どうやら、会場の外から、観戦できるスポットを見つけ、試合を楽しんだらしい。


 彼女のような知恵を使った人々は、他にもいたようで、そこかしこで密集して、観戦する人々をニュースが報じていた。そのニュースに、僕が眉を顰めていると、やがて、第四次緊急事態宣言が出された。


 あれだけ人が密集していれば、ウィルスが広がったであろう事は、容易に想像できた。

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