第8話 7.2020年 12月

 季節は冬へと移り変わっていた。いつの間にか、十二月。師走という言葉がぴったりなこの時期は、時が過ぎるのが早いと、聞いたことがあるが、僕の意識下でも、時が経つのは早かった。


 気がつけば、冬という季節になっていることに、僕は、不思議な気がしていた。春から夏は、まだ季節の移り変わりを感じていたはずだが、夏以降、季節の移り変わりを実感しなかったのだ。


 何故だろうと考えて、ふとその理由に思い当たる。以前の僕は、オフラインの生活だった。例えば、高校へは、自転車で通っていたのだが、それだけでも、四季の移り変わりに触れることが出来た。川辺に咲く満開の桜を見ながらのんびりと自転車を漕いだり、夏の日差しの中、汗だくになったり、秋のつるべ落としに慌てて帰ったり、雪に脚をとられて転んだり。


 でも、オンライン生活になった僕は、常に部屋にいた。


 常に一定温度に保たれた室内では、そもそも、衣替えという行為が必要なかったし、季節ごとに色や姿を変えて、季節の移り変わりを、僕の視覚に訴えて来る様な物も、室内にはない。


 唯一、外の世界を感じられる日々のニュースも、今は、殺人ウィルスのことばかりで、季節を感じるニュースは、全く目にしなかった。だから、僕は、季節が移り変わっているなんて実感が全くなかった。


 そんな僕に、冬という季節をおもむろにぶつけて来た人がいた。


 オンラインゲームでソロプレーヤーとして暴れまわっていた僕に躊躇なく声をかけてきて、あっさりと、僕の心の中に住み着いてしまった、彼女だ。


 彼女とは、あれ以来、毎日のように連絡を取り合っていた。


 そして彼女は、僕に冬という季節を、一言で実感させた。


“クリスマス、どうする?” と。


 それは、何度目かのオフ会への誘いだった。二人とも同じ大学なのだから、オフ会と称して、学校で会えないかと、これまでにも何度も催促をされていたのだが、まだ実現には至っていなかった。


 その理由は、もちろん僕にある。


 殺人ウィルスが蔓延しだした頃は、「ウィルスは寒さに弱いから、冬までの辛抱だ」などという、根拠のない噂が囁かれていた。


 しかし、僕が意識しようがしまいが、季節は冬へと移り変わったというのに、ウィルスは収まるどころか、さらに強力な変異型が見つかり、巷では、医療崩壊が起きていた。


 そのような外界へ、僕が出ていけるはずもなく、僕は彼女の希望を叶えられずにいた。

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