第38話 この感情は…嫉妬!?
「必ず説明しますから、とりあえず今は逃げましょう!」
汗だくの顔でジェイソンは訴えた。
「もう遅いわ」
アイクはリモコンでラボのドアをゆっくりと閉めた。全員が、アイクの視線の先を追う。空中に浮かび上がる立体のディスプレーに、傭兵軍が大型の軍用ジープでの玄関先に乗りつけている様子が映し出された。
ジープから降りてきた傭兵らが、敷地に侵入する。最後に降りてきたサングラス姿の男は軍の長官らしく、わきに数人の傭兵がひかえている。ジェイソンはその映像を見て絶望的な顔をした。
「彼は村越宗信お抱えの傭兵軍、ロバートだ」
「あらやだ、やっぱりあんたスパイだったのね、ジェイソン!」
アイクが残念そうに天井を見あげた。麗華も頭がくらくらしている。最も信頼していた秘書が自分を裏切っていたことを、簡単には信じられなかった。思わず呂布の手からジェイソンを引き離した。
「ジェイソン……。あなたはいつだって忠実で、仕事も誠実にこなしてくれました。今回の件も、何か理由があるのですよね?」
「申し訳ありません」
ジェイソンが力なく麗華の前にひざまずいた。
「私はあなたを裏切ったことは……一度もありません。社長」
「どういうことですか?説明してください」
ジェイソンは肩をすくめると、これまでの経緯を説明し始めた。
「北条会長の身辺調査をしていた最中、ゼウス社CEOの村越が私に接触してきました。村越も社長や私の動向を探っていたのだと思います。村越は私に病気の母がいると知ると、母を病室から連れ出したんです」
「……なんてこと!ジェイソン、どうして相談してくれなかったのですか?」
「社長にこのことを話せば、母の命はない、と脅されました。母があいつらに軟禁されている以上、村越に忠誠を誓うフリをするしかありませんでした。それに、このまま奴らの味方でいれば、有益な情報も入ってくると思いまして……」
ジェイソンは麗華の目をまっすぐ見た。
「信じてください。レッドに注射を打った以外に、あなたを裏切るようなことは一切していません。レッドへの注射も、異変に気付いたときにすぐに中和剤を投与しておきました」
「お母さまは大丈夫なのですか?」
麗華が不安そうな表情でジェイソンを覗き込むと、ジェイソンは力なく首を振った。
「分かりません。ただ、今は社長のことをお守りするのが先決です」
ジェイソンは、腕のスマートウォッチに視線を落とした。
「先ほど村越から電話があり、位置情報を追跡されたようです。すぐに逃げましょう」
ディスプレーに映る傭兵軍を指さし、呂布がジェイソンを叱責する。
「この裏切り者め!俺は信じないぞ!」
「私はジェイソンを信じます!」
「アタシも信じるわ」
麗華とアイクが声を揃えると、ジェイソンの目に、みるみるうちに涙が浮かんできた。
「社長、アイク、ありがとうございます!」
最後は嗚咽のような叫びになった。呂布がため息をつき、ふとカプセルのほうを振り返った。
「レッドが目覚めたぞ!」
呂布の言葉どおり、確かにレッドの指がわずかに動いていた。
ほかの3人の表情が、ぱっと明るくなる。レッドさえ目覚めれば、村越宗信の傭兵軍に太刀打ちできるかもしれない。
パン!
パン!
ラボの外で2発の銃声が響いた。
「ここに気づいたみたいです。侵入してくるわ!」
麗華が監視カメラの映像を見つめながら叫ぶ。
〈危険です。侵入者を発見〉
部屋中に警報の音が鳴り響いた。
秘密のラボのドアに向けられた、おびただしい数の銃口から、次々と銃弾が発射される。
パンパンパンパン!!
乾いた音が響き渡った。
アイクが操作パネルの上で指を忙しく動かし、多方位監視カメラの映像を瞬時に表示させる。画面の中で、サングラス姿のロバートが指揮をとり、兵士らは無差別に発砲する。その後方から、ふたりの大男がおもむろにドアに近づき上から下まで視線を走らせている。
「もしかしてドアだと気づいたのかしら?」
麗華らの緊張をよそに、アイクは落ち着き払っている。
「大丈夫。この秘密のラボのドアは1度閉まると、切れ目さえ見つけられないわ。それに最先端の防弾システムを搭載してるから、レーザー砲でもないかぎり銃弾が貫通することもないはずよ!」
「ということは、やみくもに撃ってるのね……」
「ご主人様!」
映像に集中していた全員の背後で、レッドの声が響いた。皆が驚いて振り返ると、レッドはすでにカプセルの中で座っていた。ラボの中が喜びにわいた。
「赤兎、無事なんだな!」
「ご主人様、俺は一体……?」
「よかった、記憶も戻ったのだな」
呂布は目尻に涙を浮かべ、満面の笑みでうなずいている。レッドは呂布の肩に手を回すと、感無量といった表情で自分の唇を呂布の唇に重ねた。その様子を目の当たりにした麗華が、目をパチパチと瞬かせている。
「ちょっと…!!!何をしているのですか?それは私の身体です!」
レッドはそのままの勢いで呂布を押し倒すと、馬乗りになった。レッドはうっとりとした表情で、呂布の首筋などを嬉しそうに舐めている。呂布はくすぐったそうに、レッドの赤い髪を撫でた。
「お前は昔からじゃれるのが好きな奴だな」
麗華が、心なしか怒った表情で2人の間に割って入る。
「やめてください!!お2人は昔から……そのような関係なのですか?」
「ああ、赤兎とは愛撫を交わしていた仲だ」
アイクが笑いながら麗華の肩を叩く。
「も~う。麗ちゃんたらぁ、そんなに嫉妬しないの!
「しっ……嫉妬ではありません!」
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