第2話 時は三国時代!呂布の最期の叫び
雷鳴が
西暦198年、自ら兵を率い出陣した
今、呂布の眼前には、おびただしい数の軍旗がたなびき、ずらりと並ぶ長矛の穂先が寒々しい光を放っている。下邳城の南門にあたる
曹操が合図を送ると、呂布は
「呂布よ、実は貴様をわが配下にしたいと思っていた」
曹操はひざまずいて呂布に話しかけた。呂布は顔を上げず、ただじっと地面を見つめている。にわかに降り出したぼたん雪が、またたくまに白門楼を白く染めあげ、呂布の
「だがな、貴様の主君になるということは、すなわち自滅を意味するということを、天下の誰もが知っておる」
曹操は、かつて戦神と称された呂布をさげすむように見おろし「悪く思うな」と言い放つと、冷たい表情でひらりと手を振って命令を下した。
「斬れ!」
処刑を命じられた刑吏は、三国第一の戦神呂布の首を斬るという大役に興奮を隠しきれない。刑吏が意気揚々と大太刀を振りあげたその瞬間…
ドドッ、ドドッ、ドドッ──。
遠くから馬の
呂布が音のするほうに目を向けると、雷鳴とともに稲妻が降りそそぐ中、
「
呂布は、のどの奥から声を絞り出すようにして愛馬の名を呼んだ。
幾人かの兵士が槍を突き出し、必死で赤兎馬の進路を
「やめろ!これ以上近づくな…」
呂布の悲痛の叫びも虚しく、赤兎馬は大勢の兵士に取り囲まれた。兵士たちはニヤニヤした表情で、手に持った槍を掲げている。
「畜生ごときが
兵士たちは呂布に見えるように槍を大きく掲げると、数本の槍を一斉に赤兎馬の腹に突き刺した。赤兎馬の口から咆哮が上がる。よろめいた赤兎馬は、ドスンという音とともに地面に真横に倒れ、土ぼこりが激しく舞い上がった。絶望のまなざしで呂布を見つめる赤兎馬の目からは、血の涙がこぼれ落ちている。
呂布は自らの無力を感じ、天を仰ぎ見た。
(三国第一の戦神とうたわれた俺なのに、
一部始終を眺めていた曹操は、冷ややかな笑みを浮かべながら兵士に向かって顎をしゃくった。
「さっさと殺して埋めてしまえ!」
すぐさま縄を手に前に進み出た兵士が、ふたりがかりで赤兎馬を縛りあげている。呂布は鬼の形相で曹操を睨みつけた。怒りのあまり全身が震え、身体を拘束している鎖がカチャカチャと音を立てて揺れている。
「おのれ曹操! 俺の赤兎に何をする! さっさと放せ!」
呂布は曹操の背中に怒声を浴びせたが、曹操は顔色ひとつ変えることなく、チラリと横目で呂布を見やり、あざ笑った。
「実に愚かしい。おのれの命も守れぬ男が、救える命などあるものか。もはや貴様の命運はつきた!」
曹操は、宿敵の呂布に死を宣告したことに興奮の声をあげた。
「俺が貴様の首を取れば、天下は震えあがるだろうな!」
「曹操……貴様ぁっ!!地獄に落ちろ!!」
呂布は怒りのあまり、飛び出さんばかりに目を見開いた。額には何本もの青筋を立ち、身体を縛りつけている鎖は今にも引きちぎれそうに
曹操は呂布からサッと視線を逸らすと、刑吏に向けて声を張りあげた。
「何をぐずぐずしておるのだ! 斬れ!」
命令された刑吏が大太刀を振りおろす。
ドカーーーーーン!!
大太刀が呂布の首に触れようとした、まさにその瞬間だった。突然、耳をつんざくような雷鳴が響きわたり、巨大な網のような稲妻が天空を覆いつくした。太い円柱状の稲妻が呂布の脳天を直撃し、突き刺すような真っ白な閃光が周囲を照らす。強烈な光を前に、人々は思わず両手で目を覆った。
しばらくして光が落ち着き、曹操軍の兵士と見物に来ていた民衆が目を開くと、処刑台にいるはずの呂布の姿が消えていた。呂布がいたはずだった場所には、大きな穴だけが残されている。信じがたい怪奇現象を目の当たりにした人々は、次々にひざまずき、「お許しください」と、天に向かって祈り始めた。
その中で、曹操ただひとりが、ぼう然と立ち尽くしていた。
「消えたぞ! 呂布が消えた!」
「天の神様の怒りを買ったんだ!」
「戦神が昇天したぞ!」
時空の渦が激しく回転し、瞬く間に
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