第2話
ヒュウガと早紀はさっそく、湯本健が生前よく行っていたという___つまり死後も通いそうな___いくつかの箇所をまわることにした。
「あ、ここ駐車場狭...」
「居酒屋だからな」
代わるか?と言うヒュウガの言葉を断り、向かった先は『居酒屋 れんげ』。警察署から少し離れた飲み屋街の店の1つだった。『れんげ』ができたのは約40年前。湯本健はその開店当初からの常連だったらしい。
その老舗の居酒屋の、古びた生垣にギリギリ当たらないように早紀は車を止める。ヒュウガは意外そうな顔をした。
軋む横扉を開けると、中年の女将が豆鉄砲食らったような顔をして見つめてきた。
「ま、まだ開店前なんですけど...」
「いやすいません、自分たち、こういうものでして」
と、まるでドラマのようなセリフを吐きながら2人は警察手帳を見せると、女将もまたテンプレートに警察の到来に驚く。
「何かあったんですか?」
「何かあったといいますか...この人が来たかどうか聞きたいです」
続いて見せた生前の湯本健の写真に、女将はまた体を強ばらせた。
「そう...湯本さん、亡くなってらしたんですか...」
テーブル席に早紀たちと対面で座る女将は、なんとも言えない顔をしていた。
「それで、湯本さんこちらにいらっしゃっていないかと」
「いいえ、来てません。」
一応聞いては見たものの、この答えは予測済みだった。
湯本健は生前、元気なうちは週2日は必ずこの店に来ていたらしい。
しかし死者となってからは、老いた体から解放されたにもかかわらず、この店どころかこの店に出入りしていたという目撃証言もなかった。
そろそろ席を立とうかなと思っていると、早紀の隣に座っていたヒュウガが突然、口を開いた。
「湯本さん、お金に困ってるとかって言ってませんでした?」
「は?」
女将が再び面食らったような顔になる。今度は早紀も似たような顔をしていた。
「...そういう話は聞いてないです」
ややしばらくたって女将から答えが出た時、早紀はヒュウガの方を見ていた。
「なんであんなこと聞いたんです?」
『れんげ』を後にし、車の中に戻った早紀はヒュウガに質問をした。するとヒュウガは「メモ帳、開いて」と呟く。
早紀は急いで自分のバッグからメモ帳を取りだし、ヒサから聞いた湯本健の出入りしていた箇所の書かれたページを開いた。
「フリー雀荘 天赦?...ここがなんなんです?」
指された5番目の場所に早紀は頭を傾げ、それに対してヒュウガは訝しげな顔をする。
「内海って... やらんか、アレは」
「アレ?」
きょとんとした顔をする早紀と運転を代わり、ヒュウガは予定をすっ飛ばして雀荘へと車を走らせた。
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