背中3

食連星

第1話

今まで一生懸命だったし.

振り返ることで何かを思い出すことを避けたかった.

まぁ深く考えるのも無駄だと思っただけなんだ.


たまたま見たアカウントに…

『金忘れてる』

そう一言.

笑った.

もういいよ,それは置いていったんだ.

そう返信する,

そう残すことも憚られた.

数字が1年前だった.

そう打ち込むことで,

舞い戻ってしまわないだろうかって.

いやいや,

大丈夫だろう.

もう見てないだろうなって.

この1年で大きく変わったし,

世界も増えたし,

いない時間を

過ごしたし.

忘れて

置いて来た

時間を

また

取り戻す

ことなんて.

出来る訳無いんだ.


『置いて行ったんだよ.

蒸し返すなって』

精一杯の強がりが.

自分で打ち込んだものを見るたびに.

強がりが確固たるものになって.

きっと前向いて動ける.

こんな一言に動揺なんてしないんだ.

この動画も団長に消して貰おうかなって.

その前にマと連絡を取らなくちゃいけない.

マと音信不通がってる癖に,

先にあいつとやり取りするなんて.

おかしな話だよ全く.


長く伸びたスレッドは,

時々,マと団員のファイン?て言葉を巻き込みながら,

ちょっと炎上級だった.

他でやれよって思ったけど,

連絡取れるところが他は思いつかなくて,

何度も俺自身がブロックを投げては掴まえて,

あれなんて言うんだっけ.

市松模様?

それ級にばらしたブロックを固めていく動画を見る羽目になる.

今でもやれるかなって思うには,ちょっと.

複雑怪奇なことが出来てる.

加工無しで.


約束はしてなかった.

だけど,様変わりはしてた.

ぴーふぉんの店は無くなってたし,

ボロいアパートは新しい何かを作り始めてた.

公園は変わりなかったけど,

ブランコは変な色合いに塗り替わってて,

誰がこれを計画したんだ斬新だなって.

座って漕いで,立ち乗りして一周できるほどに

ブランコは進化していなかったし俺も.

眠たくは無かったけど,

目を瞑って,

これをやることに余り意味は見いだせなかったし,

多分これが最後だなって.

ここでこうして最後.


「鍵」

首を傾けて,目を開けて,首を回して.

「ねーよ.

家も無かったし.馬鹿じゃねーの」

何も持たずに出たじゃないか.

「ほら,来い.

飛べ.」

「馬鹿じゃねーの.

そんなのとっくの昔に卒業したんだよ.」

あれから随分経ったし.

大きくなったから,そんなのしない.

すたんと立ち上がって.

「俺急ぐから.」

笑えて.笑うことが出来て.

「急ぐ人がブランコ乗るー?」

「急ぐ人だってブランコぐらい乗るんだからなっ

急ぐ人舐めんな.」

「金取りに来たんだろ?」

「金取りに来た人が何でブランコ乗るんだよ.

ブランコは乗りたかったから乗りに来たんだ.

ただそれだけ」

「アトラクション?」

「そうタダの.」

「へー」

後から声がするのを流しながら足早に公園の出口へ急ぐ.

「そっちじゃない,こっち」

「俺は駅に行くから,こっちなの!

何で着いていくと思ってんだっよっ」

振り返らずをえない.

しっかり久しぶりに見ても,あんま変わりなかった.

「あの金は,」

「何律儀だな.

腹いっぱい肉食べたらいいじゃん.

とか思ったけど,自分でそれくらい稼ぐもんな.

はした金は後腐れなく返しておこうって魂胆?」

いい気なもんだな.

「あれ母さんから貰ったから手を付けらん無いって」

何それ伝聞なの?

そっちが思ってんの?

って.

「よく覚えてたね」

そうその通り.


「だから,こっち.」

「うー…あー…

お前わざと持ってこなかったんだろう.」

「まさかー」

「金受け取ったら帰るからな」

「何宣言?」

「さー」

確かに何で宣言したんだろうって.

この辺も変わった.

俺らも変わった.

だから仕方ない.

「今はふらつかないだろうからブロック乗ったら?」

「ブロック乗れって言われてブロックを歩くんじゃない.

やりたくなったらやるし,やりたくないからやらない.」

「ふーん.

そんなもん?」

「あの頃とは違うんだよ」

そうだ違うんだよ.

「こっち」

「うん」

何だ近いな.

「ここ」

「うん.

へーこんなとこに,マンションあったんだ.

あの頃は自分たちの時間でいっぱいだったから.

行って帰って無駄なことしなかった.

知らなかったよ.」

見上げて,立派なマンションを.

そびえ立つ,素晴らしいマンションを.

「一番上.」

「へー

賃貸?」

「購入.」

「ふーん高いね色々.」

「秘密.」

「うん.

ひけらかす奴じゃないと…

思って無かった」

「何っ」

「嘘嘘.

どの鍵持ってると思ったの?

鍵って手を出されたって,こんなとこの鍵持ってる訳ないじゃん.」

「冗談くらい.

のせてたら良かった?」

「いや俺ほんと忙しいんだって.

金受け取ったら戻らないと.」

「忙しいって?」

「あー忙しい奴の前で忙しいって連呼しない方がいいんだよね.

悪い悪い」

真顔で言ったらポコッと叩かれそうな居合があった.




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背中3 食連星 @kakumi

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