第27話『ルイヴィスは増援を拒絶する』
「若くて華奢なのに、結構食べるんだね」
「はいっ! いつもはそんなに食べないんですけど、ここのご飯はとってもおいしくって」
「あーら。嬉しい事を言ってくれるじゃないの、ほら、今日もサービスだよ」
「ありがとうございます!」
食堂からの受け渡し口から晩御飯を受け取り、ルイヴィスは一人用の席に着く。
「いただきますっ」
両手を合わせ、頭を下げる。
「わぁ、これよこれ」
一番最初に口へ運んだのはやはり"肉"。
まさかのまさか、この宿ではあの『味付け干し肉』が使用されている料理が提供されていたのだ。
沢山購入して部屋の中に蓄えているものの、そのまま食べる時とまた違った味わいを楽しむことができている。
「火を通しているのもいいのよねぇ~」
他にも同じ空間に人が居ても、そんなの関係ない。
よだれが止まらないほどの味付けに、一人で食事をしているからといって黙ったまま食事を楽しむ事はできなかった。
「はぁ~、野菜と一緒に炒めてあるのもいいし、あえての汁物にも合ってるっ」
合間に水を飲んで、次を口に運び、そして水を飲む。
当然、そんなペースで食べていたら全てあっという間に胃袋へと消えていってしまう。
「――ごちそうさまでした」
最初と同じように手を合わせ、頭を下げる。
その後すぐに、食器が載っているトレーを受け渡し口へ戻しに向かう。
「ごちそうさまでした! 今日も美味しいご飯をありがとうございましたっ」
「はーい、そんなに美味しそうな顔をされるとこっちも嬉しくなっちゃうよ」
「いつもご飯を作ってくださり、ありがとうございます」
「こちらこそありがとうね。じゃあおやすみなさいね」
「おやすみなさい!」
その元気で活気のある声に食堂の人達だけではなく、同じ空間で食事をしていた人達も頬が緩む。
ルイヴィスは無自覚にも場の空気を明るくし、お腹一杯に食べたが鼻歌を奏でながらルンルンで食堂を後にした。
部屋に戻ったルイヴィスは、椅子に腰を下ろして目を閉じる。
「エリース、お疲れ様。今、大丈夫かしら」
『お疲れ様です、ルイヴィス様。ちょうど待機し始めていたところでしたので、問題ありません』
「よかった。では、諸々の情報交換を始めましょう」
『わかりました。こちらの状況的には依然、変化や騒ぎになるような事は起きておりません』
「なるほどね。それはそうでしょうけど、新しい情報はありそう?」
『それについてなのですが、こちらとしてはやはり「私達以外でも増援を送った方がいいのではないか」、という話は出ています』
「最初に私が断ったけど、何かを考慮しての提案という事ね」
『はい。今回の事件、裏で誰かが糸を引いているのはまず間違いありません。ともなれば、今後は相手側にも増援が行く可能性が非常に高いです』
「それは本当にその通りね。私も同じ考えよ。犯人の顔は直接見たわけではないけど、計二人。何者かによって無傷の状態で気絶させられていたみたい」
ルイヴィスは、それとなく村人に事情聴取をしようと思っていた。しかし村人達は心配するよりも高笑いしながら話を自分達からしてくれた。
そのおかげで、すぐに話の全貌が見えてきて聞き取り調査を続行する必要もなくなってしまったのだ。
「だから今、お姉様は誰かに囚われている可能性は低くなった。もしかしたら別の組織に捕まってしまった可能性もあるけど、そうだったら男達もたぶん殺されているはず」
『たしかにそうですね。マーリエット様を誘拐し、それを横取りする組織だとすれば間違いなく命は奪われているはずです』
「そうよね。誰に助けられたかまではわからないけど、峠は越えたって感じよ」
ルイヴィスはグーっと身体を上に伸ばし、脱力する。
「それに、なんでかわからないけど――なんだか大丈夫なような気もしてきているの」
『あのルイヴィス様が、根拠のない自信を持たれている!?』
「……いつも思慮深くてごめんなさいね」
『い、いえ。そういった意味での発言ではなかったのです。申し訳ございません』
「いいのよ、自分でも心配しすぎだってわかっているから」
『ですが、ルイヴィス様がそう思われるという事は何かあったのですか?』
「そうね。私にはとても素晴らしく、とても大切な出会いをしたって感じ」
アルクスとの出会いを思い出し、つい声色が明るくなる。
『な、なんと……あのルイヴィス様が、そこまで心を通わす事ができる人間が居るとは……』
「悪かったわね、誰に対しても警戒から入るめんどくさい女で」
『本当にその通りだと思います』
「そこは否定しないのね」
『それはそうですよ。私達メイド一人一人に対しても、普通に話をしてくれるまで結構な日数を費やしたと思いますよ? 騎士として任命なされたリイネ様に対しても、それなりに警戒し続けてましたよね? 絶対的な忠誠心がなければなれない騎士なのに』
「それはそうでしょ。お世話をしてくれるみんなも、騎士リイネも私より圧倒的に強い。その気になれば、私なんてすぐに命を絶たれてしまうじゃない」
『力だけならそうかもしれませんが、ルイヴィス様にはあのスキルがあるではありませんか。あれを突破できるのは、かなり少ないですよ』
「ふふっ、それはどうかしらね。試した事がないからわからないわ」
『当然です。そのスキルを使わなければならない時が来るのは、一番避けなければなりませんから』
――そう、私のスキル【守護の結界】は名前の通りのもの。私を中心に張られる結界は、かなりの強度で私を守ってくれる。身分的にいろいろな試行錯誤をさせてもらえないんだけど。
「そういえば久しく話をしていなかったわね。私が観ている夢の話」
『ええ、最初に話を聴いた時はルイヴィス様がまだまだ幼かった時でしたね』
「エリースだって同じぐらい小さかったじゃない」
『ルイヴィス様の性格に合わせて、私達メイドも同じく幼少期からお仕事をさせていただいていましたからね』
「その、ずっと夢に見ていた人と出逢えたのよ」
『え、ただの夢物語ではなかったのですか』
「そのまさかのまさかだったのよ。最初はいつも通りに行動を監視していたんだけど、それに至ったのも未だに理由がわかってないもの。本能が『"この人を追いかけろ"』って言ってきていたの」
『まさに運命的な出会い、という事ですか。なんてロマンチックな展開でしょうか。今、私は見えていますよ』
「何を?」
『この話をしている時のルイヴィス様は頬が緩んで、自分が第二皇女という事を完全に忘れいているのを』
そんなまさか、と思ったルイヴィスは目を閉じたままではあるが、自らの頬を触って確かめる。
「……本当ね」
『ええ、声色からすぐに判断する事ができましたから』
「なんだか悔しいわね……でも、思い出したらまたこんな表情になっちゃうかも」
『状況や場所などを間違えなければ、それはそれで良いと思いますよ』
「ふふっ、そうかもね。――というわけで、その人ともいろいろと話をしたりしているから心配は無用よ。まさかのスキル持ちって話だから」
『それは心強いですね。つかぬことをお伺い致しますが、そのお方は危険ではないのでしょうか』
「最初こそは私も疑ったけど、全然問題なかったわよ。というより、もしかしたらこの世界で一番信頼できると思う」
『なんと……そこまでですか』
「ええっとね。何を言っているのかわからないかもしれないけど、私はその人と別の世界で兄妹として生活していたの」
『たしかに、何を言っているのか理解に苦しむ内容ではありますね。ですがその話が本当だったすれば、信用できるのも納得できます』
「それでなんと! あっちも私との夢を見ていたんだって。でも私とは反対で、酷く苦しんで辛い思いをし続けていたみたいなんだけど」
ルイヴィスはアルクスと初めて言葉を交わしたあの時を、鮮明に思い出している。
「ということで、増援の件は問題なしって事で」
『かしこまりました。ですが、困った事があればいつでも申し付けください』
「ええ、さすがに無理をしすぎる事はないから安心してちょうだい」
『ルイヴィス様がおっしゃるその言葉は、私達にとって世界で一番信用ができないのですがね』
「なんの事かしら~?」
『いえ、なんでもありません。では、本日の報告は以上になりますので、ルイヴィス様もゆっくりとお休みください』
「そうね、エリースも休める時にちゃんと休んでちょうだい。みんなにもそう伝えておいてね」
『かしこまりました。失礼致します』
「はーい」
ルイヴィスはまぶたを持ち上げ、ベッドへとダイブする。
「あぁ~、またすぐにアルクスと会って話がしたいなぁ。明日には……いや、今すぐにでも!」
枕を抱きかかえ、それをアルクスに見立てて何度も頬擦りをする。
「こうしている時にでもアルクスと話せたらいいのに」
どうやっても叶えられない願望を口にするも、やはりそれはどうやっても叶いはしない。
「はぁ……寝よ」
ルイヴィスは明日への希望を託し、早く時間が過ぎる事を願いながら眠る事にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます