第13話『疑念から確信に』
ルイヴィスは、偶然にも視界に入った少年ことアルクスの後を追い続ける。
老婆と歩く最中、高さ的に目線は合わないのだが、会話の流れで顔を横に向ける時があった。
その際にふと見える横顔を眺める。しかし、チラチラと見えたとしても、やはり見覚えはない。
だが、胸の奥がぎゅっと締め付けてくる感覚が何かを訴えかけている。
――どうして、どうしてなの。あの少年に一体何があるというの……?
違和感の答えは出ない。
だが、このまま観察を続ければ、きっと何かしらの手がかりが得られると信じて尾行を続ける。
だがほどなくして、老婆への手助けが終わってしまった。
娘であろう人物へ荷物を手渡し、アルクスは老婆達に頭を下げている。
――このままでは彼を見失ってしまう。では、一層のこと声を掛けてしまう……? いや、見知らぬ人から急に声を掛けられたら不自然に思われてしまう。どうしよう……でも、気になる……。
ルイヴィスの中で疑念と葛藤が渦巻く。
そんな感じにドギマギしていると、再びアルクスは重い荷物を持ちながら作業をしている人を手助けし始めた。
その後も、また。また、その後も。
――あれでは完全にお人好しね。手伝うのはいいけど、自分のことはいいのかしら……?
あまりにも自分より他人優先にしている姿を見て、自分事でないにしても心配になってきてしまう。
――でもあの人、みんなから話しかけられ、みんなから笑顔を向けられている。普段からあんな感じで、みんなから信頼されているのね。
通過していく店の人達から様々な食べ物を貰ったり、笑顔で声を掛けらている。
あれがただのお人好しというはずがない。
――もう、尾行なんて真似はやめにしましょう。あんな尊敬に値する人を一度でも疑った私がどうかしていたわ。自分の本分を果たさなくちゃね。
疑念を取り払うように自ら両頬を叩き、聞き込み調査を再開しようとした時だった。
「きゃああああああああああ!」
ルイヴィスはその悲鳴の方向へすぐさま視線を向けると、そこには一人の少女が地面に倒れこんで居た。
そして、少女の目線の先には山積みになった木箱――が倒壊し始めている。
――だめ。間に合わないっ!
だがその先、悲惨な結末にはならなかった。
近くにいたアルクスが、自分の荷物をその場に落とし、既に駆け出していたのだ。
間一髪のところでアルクスが体を滑り込ませ、少女に覆い被さり自身を盾に――物凄い音が響き渡る。
倒壊した木箱からは様々な品があふれ出し、パッと見ただけでも軽い木箱でないのは明白。
「おいみんな! アルが子供を庇って荷物の下敷きになってる! 手伝ってくれ!」
「みんな頼む! 俺の子供も一緒に荷物の下敷きになっちまったんだ!」
「大変だ! みんなー! 手伝ってくれー!」
すぐに人だかりができ、早急に荷物の撤去が行われる。
ルイヴィスもここまでの事が起きてしまっては傍観者ではいられない。
木箱の山の元へ駆け寄り、撤去作業に手を貸した。
――お願いします。どうか、どうかご無事であって……!
もしも、こんな事であんな善良な民が命を落とすのなら、間違いなく神様というのは存在してしない。
撤去に参加した人数が多かったため、作業は迅速に進んだ。
そして、アルクスの姿もすぐに表れた――が、動きを見せない。
――嘘よ。こんなの嘘よ。自らの命を賭してまで人を助けたというのに。こんなのって……。
だがルイヴィスの気持ちは、良い意味で裏切らる事となった。
「……かはっ」
「お兄ちゃん、アル兄ちゃん! 大丈夫?!」
アルクスの生存確認と、少女の生存確認が一緒にできたのだ。
「アルー! やるじゃねえか!」
「やっぱ俺達のアルは違えなあ!」
「ったくもう、心配かけるんじゃないよ!」
観衆から称賛と拍手が沸き上がる。
アルクスは少女に覆い被さっていた姿勢から、倒れ込むように地面へ大の字になる。
「いったーっ」
「ほらよ、とっておきの回復薬だ。使え!」
「え、でもこれ凄く貴重なんじゃ」
「なーに言ってんだ。俺の娘を救ってくれた英雄に感謝もできねえんじゃ親失格だぜ! だからよ、受け取ってくれ」
「わかりました。ありがとうございます」
アルクスは涙を必死に堪える少女の父親から回復薬を受け取った。
そしてすぐに少しだけ姿勢を起こし、小瓶の中に入っている赤い回復薬を一気に飲み干す。
すると、みるみるうちに外傷は消えていき、痛々しい動きから軽快に立ち上がった。
「みんなもありがとう。荷物の撤去は俺が責任をもってしっかりとやる」
「ああ、次はちゃんと娘さんから目を離すんじゃねえぞ」
「――わかった」
こうしてすぐに人だかりは消え、何事もなかったように穏やかさが戻った。
「アル、改めて感謝する。娘を救ってくれてありがとう」
「い、いえ! 当然の事をしたまでです。それに、ちゃんとお礼はいただきましたので」
「そう言ってくれると助かるよ。ここは俺に任せてくれ」
「わかりました。では、お気をつけて」
「アル兄ちゃんありがとね! またあそぼー!」
「うん、またね」
こうしてアルクスは町の外へと足を進めた。
ルイヴィスはその背中を見て、夢で見ていた、憧れていた、焦がれていた、あの人とアルクスが重なった。
疑惑は確信へと変わる。
ルイヴィスはアルクスを追いかけ、声を掛ける事を決心した。
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