ごはん備忘録
渡来みずね
クロワッサン(また買う)
クロワッサンというものは好きでも嫌いでもない。
いや、多分どちらかというと好きなのだが、食べ物というのは好悪で考えれば全部なんでもうっすら好きなお脳の小さなほにゅうるいであるので、比較級で思えばそこまでワクワクが想起される食べ物ではない。
ところが、出会ってしまった。
アルカションで修行したというこぢんまりとしたパティスリーのショーケースの上でひっそり売られていたクロワッサン。なんの気無しに注文した時にはうっすら暖かかった。
見た目は普通。茶色で、スタンダードな形状の三日月型クロワッサンだ。
パンだと思うと破格に軽い重み。
スーパーのクロワッサンなんかだと力をかけるとフニャッと潰れるかかさかさに砕けるイメージがあるが持った感じは結構しっかりしている。ちょっと力をかけてもがしゃっと崩壊しなさそうな程度のしっかり感。
皮はばりばりのレベルに入っているほどに固く、ざくっとやるとなんだかランダムにこう焼け固まったところがとてもうまい。特になにか塗ってある気配もないが、パン自体の糖分がカラメル状になっているとみえて、重なりで生まれる歯ごたえがすごい。
皮の下一枚に潜んでいる薄いところもじゅわじゅわ滲み出てくるバターがうまい。薄い紙のような生地の合間に異様に旨いバターがじゅわじゅわに潜んでいる。取り上げた感じサラッとしているようなのにそこだけ噛み締めたらじゅわっとした、すごい。
スーパーのクロワッサンなんかだとじっとりの薄いパイ皮めいた層が最深部まで続いており、なんというか脂っこさに遠い目になることもあるのだが、こいつはどう焼いたのか、一番芯のところがごくわずかに上品な綿のようになっており、かそけき食感でほわっと消える。これが絶妙な量で、パンっぽさが出ない程度のほわっ感なのだ。
つまり、じゃくじゅわほわっ。
カラメルめいた香ばしさ、そこに岩塩だろうか、ランダムな塩気と多分発酵バターだと思われるバターの圧倒的な丸い甘みとうまみ。ほどける生地の上品な甘さ。
なんの気無しに買って、ほの暖かったので車内でそのまま一口やったところ、眼の前にぱちぱち光が散ったような心地になり、そのまま車をUターンさせて5つばかり買い込むことになった。
また買う。ぜったい買う。
昼過ぎに行ってもなんとかケーキは残っているという具合の、人気ではあるが超行列店ではない、という塩梅のお店なのだが、これ以上流行って買いたいケーキとパンを買えなくなったら生きる気力が10分の1ぐらい削れる気がするので、末永くこのぐらいの混み具合でいてほしいと思う。
というわけで場所は秘す。でもアルカション修行シェフはそんなにいっぱいいない気はするので探したらわかるかもしれない。
見つけたときにはぜひクロワッサンを買ってほしいと思うけれど(ケーキも当然うまく、ねずみは普段ケーキと焼き菓子を目当てに通っている)買い占められるとねずみが腹を上にして大暴れすると思われるので、一つ二つは残しておいてほしいと思う。
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