彼の気持ち
6月の終わりごろ、「ご飯行きましょ。聞いてほしいことあるので。」と連絡がきた。彼とはしばらく会っていなかったし、今度こそ彼の素顔を暴いてやろうと思って行った。でも、彼はいつもと違って暗い顔をしていた。聞けば、就職先に迷っているらしい。教師を目指していたけれど、実習を終えて諦めたらしい。彼は、彼自身の夢を話してくれた。でも、夢を追いかけたらいろんな人を振り回してしまうことを気にしていた。今日の彼はどこかおかしい。いつもは自分語りなんてするキャラじゃないのに、今日はずっと喋っている。それに、やけに私の顔色をうかがいながら話していた。
「山上さん、付き合ってほしいです。」
彼が別れ際に放った一言に驚いた。驚きのあまり、よく考えずに「まだ、はやい。」としか返すことができなかった。本当にびっくりした。彼は、好きって感情になることあるんだ。
帰りの電車の中、私は今日のできごとを振り返った。彼からご飯に誘われて、就職の話をして、夢の話をして。そうか、彼は真剣に未来のことを考えて、私がどんな反応するかを見ていたんだ。だとすれば、彼が私の顔色をうかがいながら話していたことにも納得がいく。嬉しかった。人に興味を示さない彼が、私のことを考えて、相談して、思いを伝えてくれたことが。それと同時に、私という存在が、彼の将来の選択肢を減らしているのではないかと思うと心苦しかった。「また明日!」彼の連絡に返信できないまま次の日を迎えた。
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