せめて机上の愛を教えて

御角

自白

 とある深夜のことだった。


『山奥で発見された身元不明の遺体について、現在でも調査が進められており……』


 字幕付きのニュースを消音で眺めながら、巡査は交番で一人ため息を吐く。


「ごめんください」


 ふと入り口から、か細い声が耳に入り、巡査はハッと顔を上げた。扉を開け視線をやれば、身なりの汚い男の姿が目に映る。


「はぁ、なんでしょう」


 一見ホームレスのような雰囲気の男に、巡査は半ばうんざりしたような表情で答え、気だるそうに頭をかいた。


「——を、したいんです」

「……はぁ?」


 今にも掻き消えそうな声に思わず聞き返すと、男は伸びた前髪の隙間から死んだ目を覗かせて、再びボソリと呟いた。


「ですから、自首を、したいのですが」


 ホコリにすすけた、しかしどこか芯のある言い草に、巡査は疑問を呈する暇もなく気圧けおされてしまう。


「……はぁ」


 結果、ポカンと開いた口からは、気の抜けた二文字が漏れ出るばかりだった。


 巡査が鼻で笑いながらもまとめたその、小説さながらの男の供述が真実味を帯びたのは、それから約一週間後のことであった。

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