新社会人のあなたへ

佐々井 サイジ

新社会人のあなたへ1

 この度はご就職、誠におめでとうございます。


 入社八年目で今年三十歳を迎えるわりには役職についておらず、結婚もしていなければ彼女もいない、あなたが今後選ばないであろう選択肢ひたすら猛進してしまった僕から社会人になるにあたってのメッセージを送ります。成功者側の意見は聞き飽きていると思うので失敗した社会人の立場として話します。


 人っていうのは成功談を聞けばワクワクすると思いますが、それだけではいまいち行動意欲につながらないものですよね。現に僕は新卒のころ、上司から成功体験を聞きましたが妄想して満足するだけで終わりました。なので失敗談も聞くことで、数年後こうはなりたくないという恐怖心を併せ持つことが大事です。


まず、会社の理念や上司からの指示は半信半疑の状態で臨むようにしてください。会社の理念は素晴らしいことを掲げていますし、もちろん社長や創業者が心底そう思っていることです。ですが一方、社員を体よく働かせるために掲げている側面もあります。いわばマインドコントロール、洗脳です。


『顧客に貢献』『社員の生活品質の向上』『世の中のため』素晴らしい言葉が理念にはふんだんに盛り込まれていますよね。善の心を持って働くことが大切なことは疑いようもないことですが、そのために社員が精神を病むまで働いても(働かされても)基本的には会社側は責任を負わないように対処するのが現実です。


 だからあなたの上司もパワハラやセクハラに充分配慮しているはずですが、それ以上に鬱で出勤できなくなった社員をいかに穏便に辞めさせるかに気をもんでいます。オーバーワークさせる企業は最近減ってきたと思いますが『成長のための負荷』として過剰に負担させられることもありますよ。


 そんな僕も二年目のときに鬱病を抱え、休職していた時期があります。

「悩むよりどうやったら改善できるかの思考を巡らすのが●●の課題だよ」

「とにかくマインドセットを変えてください」

「ウチは残業なしの会社なので、●●の残業が多かったのは●●に課題があるはずだから一緒に考えましょう」


 休職中に上司から定期的に電話で言われたことでした。心を病んでいるときにそんな言葉がけは無駄です。というより迷惑でしかありません。


 あなたが早速病気で休職して同期との差がついてしまうと心配していませんか? どうぞご安心ください。あなたのライバルの同期は一、二年ほど経てば半分以下に減ります。優秀な同期、仲の良い同期、かわいい、イケメンな同期。たいていいつの間にか退職しています。仲の良い同期も案外、事前連絡なく辞めていくものです。同期同士のライバルは減るのでそこはラッキーです。


 ただ人づきあいは注意してください。僕の場合、「この二人とは一生いいライバルなんだ」と思っている同期が二人とも三ヶ月以内に消えていました。事前連絡なしで。僕はその二人以外社内の先輩とも関わってこなかったので、たちまち孤立状態になりました。まあそれが鬱の原因の一部なんですけどね。

 

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