第51話 配下七魔族の作戦実行

 配下七魔族の作戦は実行された。


「でもよ、配下七魔族で順番にパンを贈っているけどよ、いいタイミングでぶつかってくれるか?」


「大丈夫よ、きっと! 魔王様がぶつかりやすいように、仕事の相談という形でこうやって私たちが呼び出しているじゃない?」


「そうだな!」


 雪の魔族と雷の魔族が代表して、魔王を呼び出し、執務室近くの廊下で隠れて待っていた。


 作戦を実行するためには、パンを食べるクロウと魔王がぶつからなければならない。……パンを食べる役が男女反対な気もするが、惚れる側がパンを食べているという意味ではあっているのであろうか。人間の恋愛漫画という創造物での知識を基に行動していることに、誰も気づいていないのであった。


「じゃあ、俺、少し魔王様の様子を見てくるぜ!」


「あ、待って」


 雪の魔族が呼び止める間もなく飛び出した雷の魔族は、何者かに全力で衝突し、その相手は吹き飛ばされることなくぎりぎりで耐えたのであった。


「す、す、すみません!」


「いや、いいけど、気をつけろよ? 相手が俺だったからいいものの、テラスだったとしたら、今の衝撃で吹っ飛ぶぞ? そうなったときのディラン様を想像するだけで、震えが止まらねーよ……あ、パン、ありがとうな。うまかったぞ!」


 パンをかじりながら、クロウがそう雷の魔族に話しかけ、肩を軽くたたいて去っていった。


「なんであんたがクロウ様にぶつかっているのよ?」


「……ぶつかったとき、びりっときたんだけど、もしかして俺とクロウ様が運命なんじゃねーか?」


 顔を少し赤く染めた雷の魔族に、雪の魔族は吹雪を浴びせる。


「んなわけあるか! あんたが雷の魔族だから、ぶつかった衝撃で電気を発しただけだわ!」


 そういって、二人が全力で落ち込んでいるところに、魔王は現れた。


「ど、どうかしたのか? 我でよければ話を聞くぞ? は! も、もしかして、地獄の労働環境がそんなにも合わないのか? 雪の魔族はもっと寒い場所を担当できるように我が地獄の神に交渉してこようか?」


「違うっす、大丈夫っす。ただ、自分のポンコツさに嫌になっているだけっす」


「右に同じです……」


「何か仕事でミスをしてしまったんだな? わかったぞ、我に任せろ! ほら、頭を出せ。我が落ち込んでいるときに、く、クロウがよく撫でてくれるんだ! ほら、うれしいだろ?」


「うっ、魔王様の成長に感涙っす」


「こんなにも立派になって、嬉しいです!」


「む? まぁ、喜んでいるのなら、よいか」


 そう言って、魔王と雷の魔族、雪の魔族は笑い合ったのだった。









---翌日


「魔王が心配なのか? 自分の仕事をおろそかにしてまで、ここに見に来る必要はないだろう」


 窓の隙間から、覗く配下七魔族たちに、地獄の神は苦言を呈した。


「「「「「ひぃぃぃ。ごめんなさいーーー」」」」」

「…………すみません」


 慌てふためきながら、逃げ帰っていく配下七魔族を横目に、勇気を出した様子で舞おうが地獄の神へ謝罪を伝えるのであった。


「その、地獄の神、配下の者が大変申し訳ない……」


「まぁ、それだけ部下に愛されているってことだろう」


 そう言って、席に戻るディランは、通りすがりにテラスの頭を撫でることを忘れない。


「大丈夫ですよ、ディラン様は怒っておりませんよ」


 テラスが微笑みを浮かべながら、魔王を励ました。


「元気出せって。ほら、最近なぜかよくパンが贈られてくるから、分けてやる。ん?手がふさがっていて、食えないか? ほら、口、開けな」


 クロウがそう言って、自分の食べていたパンをちぎり、魔王の口に押し込もうとする。


「わ、じ、自分で、ふぐっ」


 真っ赤になりながら、自分で食べようとするも、書類で手一杯だった魔王は、その口へと押し込まれたパンを食するのであった。


「うめぇだろ?」


 真っ赤なまま、こくこくと頷く魔王の姿に、思わずテラスが苦言を呈す。


「クロウ様。女の子にあーんはどうかと……ん? いえ、なんでもありません。しかし、贈り主がわからないものを食べるのはどうかと思います」


「贈り主はわかっているぞ? ほれ、魔王の配下七魔族だ。順番にパンを贈ってきやがる」


「……なるほどです。魔王さん、今度天界の私の友人を招くので、一緒に女子会をいたしませんか? 配下の七魔族の女性の方もご一緒に」


「お! いいじゃねーか。なんか食いもんでるのか?」


 何かを悟ったテラスの提案に、食べ物の空気を敏感に感じ取ったクロウが食いつく。


「……クロウ? テラスの私室に侵入しようとしているわけじゃないよな?」


「で、ディラン様! もちろんです! て、テラス。おいしいお菓子の差し入れ待っているからな!」


 地獄の神ににらまれ、書類を届けてきます、と脱兎のごとく、クロウは急いで飛び去っていった。


「クロウ様へのお菓子の差し入れは、魔王さんにお願いしましょうね」


「わ、我がクロウに差し入れるのか!?」


「ふふふ。魔王さん、クロウさんのこと、どう思っていらっしゃるんですか?」


 にやにやと小声で魔王に問いかけたテラスに、一歩ずつ追い詰められていく魔王は、真っ赤になって叫んだ。


「な、な、なんでもないぞ!!!」


「では、ミコに連絡しておきます」


「じょ、女子会とやらは決定事項なのだな? 我、そういう友人との集まりが初めてだから、その、嬉しいぞ……」


「か、かわいいです!!!! クロウ様にはもったいないです!!!」


「テラス?よくわからないけど、一番かわいいのはテラスだよ?」


「うぅぅぅぅ。突然、味方から攻撃を受けました」

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