第27話 テラスへの告白

「怠惰の神が、日陰の神の見世物の執行官となることとなった」


「あ……あれ、本当に実行なさるんですね」


「テラス。最高神とディラン様が盛り上がってしまったんだ。我々にはどうしようもない」


「先行して、クロウが処刑の神・陰を司る神になった」


「日陰の神ではないのですか?」


「……グレードアップ?」


「まじかよ! 責任増えちゃうじゃん……俺、ディラン様のお近くにいたいから神になっただけなのに」


「そもそも、地獄には、二柱しか神がいなかったから、仕方ないのではないでしょうか」


「それに伴い、テラスは地獄の使い人の総取りまとめ役となった」


「私も!? そもそも、今のところ、地獄の使い人は私しかいないですよね!?」


「もうすぐ増える。使い人にして、初めての取りまとめ役だよ」


「ひぇぇぇぇ」


「仲間だな! テラス!」


「ごめんなさい、クロウ様。先ほどは申し訳ございませんでした。お気持ちがすごくよくわかりました」


「元神の使い人で各種労働に入ってもらう者たちだ。その分、鬼たちには淀みのおかげで滞っていた各種業務を手伝ってもらおう予定だ」


「今のところ、鬼さんたちは元肉体派と思えないほど効率的に書類仕事を済ませてくれています……運動不足を訴えて、腹筋背筋懸垂その他筋トレをしながらですが」


「ほっ、ほっ、ほっ……」


「1021、1022、1023……」 


「想定外にいい配置変更だった」


「……元使い人の皆さまの筋力強化魔法でもかけておきましょうか?」


「……逃げないか?」


「持ち場について、罪人特有の拘束具をしっかりとつけてからなら大丈夫ではないでしょうか?」


「テラスまで、そっちの思考になってきたぞ……」


「では、それで行こう」


「神たちは、すでに持ち場について刑の執行をしているよ。……テラスが見たいなら、見に行く?」


「「結構です」」


「というか、ディラン様。今のテラスの表情は、”見たいな”ではなく、”うわぁ”かと思います」


「テラス、そうなのか?」


「そうなのです」


「あと、テラス宛に各種天界のお菓子詰め合わせ等が届いている」


「どなたから!?」


「テラス信者……というものからだとクニヒトが言っていた。念のためにクニヒトと最高神が毒見しているそうだ」


「一番毒見しちゃいけない人が毒見していますよね?」


「まぁ、テラスに何かあったら、ディラン様が天界を滅ぼしかねないからな」


「ふふふ、面白い冗談をおっしゃいますね、クロウ様」


「……」


「え? 冗談ですよね?」















「見つけたぞ!! ここが地獄だな!?」


「……勇者様。どうなさったのですか? 悪事を働いて死んだのですか?」


「いや、テラス。こいつは生者のようだ。ここは地獄だ。クニヒトの世界の勇者といえども、私の領域に勝手に立ち入った罪は……」


「ごめんなさい! ディラン様。うちの勇者がテラスを追って、地獄への扉を……ってもう着いてる!」


「誰だ? このおっさん」


「失礼ね! あなたの世界の女神様よ!」


「クニヒト様。今のお姿での女装はかなり無理があるかと……。あ、勇者様が失神しているようです」


「やっぱりこの格好きついかなぁ」


「クニヒト。半分消滅しているアレは、消していいか?」


「ディラン様、だめです! まだあたしの世界の魔物は蔓延っているから、勇者消されたら、あたし消えちゃう!」


「「「……」」」


「やべぇおっさんだな」


「クロウ様に同意します」


「これが私の友人か……」


「もう! この勇者、テラスさんに惚れちゃったらしくて、毎日毎日毎日毎日昼夜問わず教会であたしにテラスさんに会わせてと頼み込んできて……。鬱陶しくて、手の届かない者だとわからせようと、地獄の使い人って教えちゃったのぉ」


「テラス、消していいか?」


「少し気持ち悪いので、私的には問題ありません」


「だっめー! そこからまさかの地獄の入り口を見つけて、破壊して、テラスさんに告白しに来たみたいなのぉ」


「……やっぱり消そうか?」


「謹んでお断り申し上げたいので、消してしまっても問題ないかと思います」


「テラスさんには、ディラン様っていう方がいるって説明する前に行っちゃったから、慌てて追いかけて……ってあれ? どんな空気? これ」


「はじめまして、クニヒト様。これだけいちゃこらしている二人ですが、そういう進展は全くありません」


「嘘!? そうなの!? 恋愛の神は何やってるの!?」


「……あいつも恋愛面に関しては、偏差値30くらいでした」


「あらまぁ」


「ディラン様にテラス。クニヒト様も困っているし、さくっと告らせて、さくっと振って、目を覚まさせて、地上に返したら問題ないのではないじゃねーか?」


「承知いたしました」


「テラスがいいなら……」


「では、浄化しますね」


「はっ!? 僕はどこに……って大聖女様!? 大好きです! 美しく、強く、優しく、強いあなたに惚れましたぁ! 僕の世界にきてくれませんか!?」


「あれ? テラスの奴、照れてねーか?」


「勇者の世界というか、あたしの世界なんだけどねぇ」


「……消すか」


「ごめんなさい。気持ちは嬉しかったですが、正直あなたに気持ち悪い以上の心情を抱くことができません。善行を積んで、精一杯クニヒト様の世界を救ってください」


「わぉ。思っていたよりはるかに辛辣な振り言葉」


「テラス。いいね。私はもっと言ってもいいと思うよ」


「あらぁ……」


「俺の世界の……メガミサマ? あれ、脳が……」


「勇者の様子がおかしいぞ」


「もしかして、あちらの世界の女神像を信じていらしたのでしょうか? 確かに、教会に飾られた女神像は思春期の男子の妄想を具現化したようなものでした。あれが女装したおっさんだと判明したら、こうなっても仕方ないかもしれません」


「テラスさん、あたしに辛辣すぎない!? これでもあの像は若いころのあたしそっくりよ?」


「いつまで女装しているんだ? このおっさん」


「クロウ様までひとぉい! ディラン様!!!」


「……クニヒト。あきらめて、そいつ連れて自分の世界に帰れ。今ならまだショック状態だから、多少記憶をいじれるんじゃないか?」


「そうね!? 帰るわ! みんなありがとうぅ」

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