第26話 魔王討伐

「大変だったな」


「ディラン様が魅力的なので、ファンの方の暴動ですね。あらぬ疑いをかけられてしまい、申し訳ございません」


「私がテラスを気に入っているのは、事実だろう?」


「はい……」


「この空気で毎日仕事してる俺、偉くない?」


 クロウがバタバタと暴れていると、天界からの使いが来た。


「む? もう先日の沙汰が決まったのか?」


「いえ、今回はテラス様への召集です。地獄の神の同席も許されております」


「最近、天界に行くことが多いですね」






「ごめんねー。僕が地獄に行けたらいいんだけど、最高神が天界から抜け出しちゃダメってみんながうるさくってー」


 へらへらと謝る最高神の隣に、見たことのないおっさん神がいた。


「……誰だ?」


「昔、ディランも会ったことあるよー」


「お久しぶりです、ディラン様」


「……もしかして、クニヒトか!?」


「そうです。はじめまして、テラスさん。とある世界を司っているクニヒトと申します。クニヒトとお呼びください」


「……そんな姿になるとは、なにかあったのか?」


 ぽこんと出た腹、人の良さそうな容姿ではあるが、世界を司る神というには美しくない。


「いやはや、本当はテラスさんが転生してくださる予定だったんですけどねぇ。大聖女がいなくても、何とかなってくれるかなと思ったけど、無理でしたぁ」


「……なるほど。その結果がその姿か」


「どういうことですか?」


「世界を司る神は、その世界の状況によって容姿が変わるんだ。世界が終わることになると、よぼよぼになって最後消滅し、新たな世界の神となるんだ」


「そうなんですね……では、クニヒト様の世界は不調……ということでしょうか?」


「本当はテラスさんが大聖女として転生して、魔王討伐のメインとして戦ってくれる予定だったんですけどね……。大聖女がいるはずだったパーティーに最大戦力が欠けるとなると、火力不足でして。世界各地に魔物があふれ、人類滅亡の危機!」


「……魔物さんがいても、世界は滅びてしまうんですか?」


「うちの世界の魔物は、魔王以外知能がなくて、共食いをするんだよぉ。人類が滅んでしまったら、衰退の一途をたどることになるよねぇ」


「そうなんですね……」


「ということで! 大聖女もとい神の使いとして、テラス……と、保護者ディランに降臨して、魔王討伐をしてきてもらおうかと思って! 本当はテラスだけでいいけど、ディランがうるさいから一緒でいいよ。その間、地獄の維持は僕とグラーシスでなんとかするよ」


「まっかせなさい!」


「グラーシス、いたんだな」


「もう! ディランったら、テラスちゃんしか目に入ってないからって失礼よ!」


 ぷんぷん、とするグラーシスだが、クニヒトは美女のぷんぷんにダメージを食らっている。


「クニヒト様。大丈夫ですか?」


「だ、大丈夫。美しさと可愛らしさが溢れていて、天の国に来たかと思った」


「クニヒト。ここは、天の国みたいなものだ」












「クニヒト様。どのようにして魔王討伐をしたらいいのでしょうか?」


 クニヒト先導の元、クニヒトの世界に向かう地獄の神とテラス。テラスは、疑問をぶつけたのだった。テラスには、貧弱な自分が魔王なんて強大な者を討伐する未来は見えないのだった。


「うーん。勇者パーティーと一緒に行動してもらおうと思っていたけど、過剰戦力のディラン様がいるからねぇ。勇者たちと魔王が戦い始めたら、さくっと降臨して、ばーんと魔王をやっちゃって! もうすぐ始まると思うから、それまで僕のお家で待っていよう」


「はい」


「クニヒトの家は久しぶりだな」


「ディラン様とクニヒト様は仲良しなんですね?」


「最高神たち以外で、私のことを普通に扱ってくれる唯一の友人だよ……。いつの間にか見た目はおっさん化してたけど」


「おいおい、おっさんだなんてひどいじゃないですか。まぁ、ディラン様は大事な友人なので、大切にしてあげてくださいね、テラスさん」


「はい」


 和やかな空気でお茶を楽しみながら、世界の様子を見守っていると、勇者と魔王の戦いが始まった。


「そろそろいきますか?」


「ここまで頑張ってきたんだから、多少戦わせてあげたいなぁ。行き詰まったら、僕は声だけで降臨するから、テラスさんとディラン様でさくっとやってきて」


「声だけなのですね」


「このおっさん容姿で降臨したら、勇者たちの神様像を壊してしまうからね」


「なるほど……」












「テラス、そろそろいこうか」


「はい」





---

「勇者よ……よく頑張りました」


「「「女神様!」」」


「「女神様!?」」


「あなたたちに神の使い……と神? を授けましょう。彼らと一緒に戦ってください」


「「「はい!」」」


「え、クニヒト様は女神さまなんですか?」


「ふざけて女装して降臨したら、女神になっちゃってねぇ。仕方ないから、その後はAI使って女声にしてるよぉ」


「まぁ、昔のクニヒトの容姿ならば、女装したら女だと思うだろう」


「じゃあ、テラスさんにディラン様。よろしくお願いいたしますね」








「はじめまして、勇者パーティーのみなさま。神に使わされたテラスと申します」


「だ、大聖女!?」


「……ディランだ」


「この世界の神の御友人で、とある偉大な神ディラン様です。善行を積んでいくであろう皆さまには縁遠い世界で普段暮らしておりますが、魔王討伐をお手伝いさせていただくことになりました。……では、軽く浄化魔法をかけていきますので、皆さまで総攻撃してください」


 テラスのその言葉を聞いた勇者パーティーは絶望の表情を浮かべる。勇者と見受けられる銀髪の青年が、意を決した様子で代表して声を上げた。


「大聖女様、いえ、神の使い。我々はもう……」


「あ、ヒール」


「「「古傷まで治った!?」」」


「これが大聖女の力か」


「勇者、たぶんこの神の使いが特殊なんだと思うよ?」


「では、浄化……って、皆さま? 攻撃を……」


「テラス。もう、魔王は消えているぞ」


「え? ……本当です」


「さすが大聖女の器じゃ。テラスさ……テラス。戻ってきていいですよ。では、勇者パーティーよ、この世界の平穏のために、残った魔物の討伐を……魔王城周辺にはいないようですが、お願いいたします」


「「「はい! 女神様!」」」


「今日の私の浄化、強力でしたよね? 軽めの浄化魔法のつもりだったんですが」


「……クニヒトが何かお茶に盛ったんだろう。戻ったら、問い詰めよう」


「あまり、問い詰めすぎないでくださいね? クニヒト様はいい方ですから……」


「大聖女様、美しくて優しくて強くてしゅごい……」


「勇者?」












「どういうことだ? クニヒト?」


「一応、念のためにと思って、最高神にもらった天界印の魔力増強剤※副作用なし をテラスさんのお茶に混ぜたの……」


「最高神か!」


「クニヒト様は、きっと私のことも心配して、盛ってくださったんですよ、ね? 前に飲んだことがあって、私が飲んでも大丈夫って最高神もご存じだったのです」


「うん、うん」

 壊れたロボットのように、クニヒトは頷いている。


「おかげで、テラスの力に慄いて、ファンとなった層もできたようだよ。ファンクラブの長はクニヒトだよね?」


「鳩!?」


「最高神……」


「最高神が鳩になってこちらにいらしているんですか!?」


「いや、分身というか……化身というか、だな」


「鳩!!」


「クニヒトも美容の神とかに、テラスの転生の時の違反について、異議申し立てしていいよ。僕のほうからもその報告を受けてって形で厳罰を与えておくよ。まぁ、おかげで神の使いを顔採用からルールに則った実力採用に正す大きな後押しになったよ、ありがとう」

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