第24話 テラスの危機

「では、ディラン様。先に向かってます」


「大丈夫かい? すぐに行くけど、気をつけるんだよ」


「事情を聞きに、更衣室のお姉様のところに行くだけですよ? 私一人でも問題ないくらいです! クロウ様も同行してくださいますし」


「任せたよ、クロウ」


「もちろんです! お任せください!」



 クロウとテラスが更衣室に向かって、調査に出かけた。先日の土砂崩れについて、手がかりがないかどうか聞きに行くためだ。










「テラスが大規模浄化をしてくれてから、過ごしやすくなったぞ! ありがとうな!」


「いえ。お役に立てたなら、嬉しいです」


「お? あそこ、淀んでないか?」


「本当ですね! パパッと浄化してきます!」


 曲がり角の向こう側に、淀みを見つけたテラスは、浄化するために駆け出した。


「気をつけろよ!」


「はーい……きゃあ!」


「テラス!?」


 叫び声を聞いて、慌ててクロウが飛んでいったところ、テラスの姿はなかった。


「……ディラン様に知らせて、探しに行かないと!」


「よう、クロウ様。あれ? ディラン様とテラスはどこだい?」


「姉御! テラスが消えちまったんだ!」


「テラスが消えた……?」


「このあたり……。確か、大昔に淀みの点検に使っていた通路があったはずだよ! 案内してやるから、探してきな! あたいがディラン様を呼んできてやるよ!」


「ありがとう! 恩に着るよ!」








「ディラン様! テラスが何かに連れて行かれたみたいだよ!」


「なんだと? どこだ。すぐに行くから、案内してくれ」


「もちろんだよ!」














「お前が地獄の神のお気に入りか。平凡だな」


「そんな……」


「何でお前、照れているんだ?」


「お気に入りだなんて……」


「こいつ、やべえな。まあ、いい。お前は、地獄の神を追放するのに、役立ってくれたらそれでいいんだ」


「あなたは、血の池で働いている鬼さんの取りまとめ役の鬼さん……。なぜディラン様を追放しようとされるのですか? ディラン様のおかげで、地獄は暮らしやすくなったはずです!」


「あぁ、そうだよ! 地獄の神のおかげで、おらたちが若い頃より暮らしやすくなったよ!」


「じゃあ、なんで……」


「おらたちの時は、若者が苦労して、取りまとめ役まで出世したら、仕事なんてしなくてよかったんだ! そのために、嫌いな上司に媚びを売って、死にそうなくらい働いた……。それが今は、ハラスメントだ、働き方改革だ? 地獄の神のおかげで、取りまとめ役のおらにも仕事が与えられるようになった! 若者と同じくらいの仕事の負担だ!」


「その分、取りまとめ役の鬼さんはお給料が高いですし、働きやすくないですか? 地獄は、天界よりもはるかに進んでいると思います」


「きつい仕事は若者にやらせて、上は甘い蜜だけ吸ってればいいんだよ!」


「それがお前の願いか」


「ディラン様! ……とクロウ様とお姉様!」


「あたいたちはおまけかい? まぁ、もうあたいらなんて眼中にないようだが……」


「うごっ」


 地獄の神の固有魔法 隷属で一瞬に取り押さえられた取りまとめ役の鬼。地獄の神はテラスに駆け寄り、優しく抱きしめた。


「怖かっただろう。すまなかった」


「ディラン様のせいじゃありません。私が一人になったから……」


「一人に……? クロウ?」


「いや、その、申し訳ございません!!」


「私が走っていってしまったので、クロウ様は悪くありません」


「無事で本当によかった」


「うっ……」


「取りまとめ役の鬼よ。お前には期待していたが、残念だよ。新時代についてこれない、暴動を起こすものは、牢獄での重労働についてもらおう」


「そんな……」


 うなだれた鬼は、姉御たちに捕らえられ、連れて行かれたのだった。

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