第9話 同僚との再会
「久しぶりー! テラス!」
「ミコ!? 地獄にきて大丈夫!? とりあえず、浄化しとくね!」
ミコがテラスに会いにきた。
「テラス、大丈夫か? 上手くやってるか?」
テラスの頭をポンポンしようとした恋愛の神の手は、ディランによって止められていた。
「気軽に触るな」
「あ、地獄の神……誠に申し訳ございません」
恋愛の神が一歩引いて、頭を下げる。かなり上位の神と認識していた恋愛の神が頭を下げる地獄の神というものは一体何者なのだろうか、という空気がミコとテラスの間に一瞬漂った。
「あ、恋愛の神じゃないか! 何しにきたんだ!?」
空気を読まずにクロウが恋愛の神に絡みにきた。助かった、と恋愛の神の顔に書いてある。
「いえ、そこのミコが、テラス……様の様子を知りたがっていたので、出張がてら参りました」
「そうなの? ミコ。久しぶりに会えてすごく嬉しいよ!」
「テラスがいなくて、こっちはすっごく大変だけど、テラスが幸せそうで本当よかった……」
テラスが抜けた代打は、安定の“顔採用”メンバーのため、使い物にならないの、とミコトがこぼす。ただ、怠惰な神のストライクな女性だったらしく、怠惰の神が今までよりは働こうとしているらしい。
「“くっそ気持ち悪いんだけど、あの神。近寄らないでほしい”って、裏では罵詈雑言しか溢してないし、本人に対しても結構キツく言ってる」
「え、怠惰の神のことだから、そんなこと言われたら不機嫌にならないの?」
「いや、なんか……隷属している感じ? 女王と家来みたいな感じで喜んでるし、崇めまくってるよ? まぁ、仕事を今までサボっていた分、ヒィヒィ言ってるけど」
見てて害はないけど、光悦した顔が気持ち悪い、とミコは切り捨てた。
「私が抜けた負担がミコにだけのしかかるんじゃないかって心配してたから、そうじゃないみたいでよかった」
「テラスみたいに優しくないから、乗せられた分は全て戻してるからね! 犬がたまに困って、くるくる自分の尻尾を追いかけてるよ」
「想像できる!」
「で、テラスは? 二人きりで飲みたいくらいだけど、強引に出張理由を作ってもらったから、あんまり時間ないんだ、ごめんね? 見た感じ、幸せに働けてそうで安心したけど」
ニヤニヤとした表情で、ミコがテラスをひじでつつく。
「ありがたいことにかなり働きやすい環境を整えてもらってるよ」
「それだけ? まぁ、今度二人きりで飲もう?」
「いいね! 地獄で飲むなら、ミコがくる前に連絡くれたら、浄化しとくよ!」
「あ、その件なんだけど」
恋愛の神がディランの様子を伺いながら、テラスに声をかける。
「テラス、様が異動してから、地獄の澱みがかなりなくなったって上で騒ぎになってるみたいで……なんかした?」
「迷子になって多少うろついたくらいですかね?」
「え、テラス、それ、大丈夫だったの?」
ミコがテラスの手を握って問いかける。
「私的には全然大丈夫だったけど、浄化しちゃまずかったかな?」
テラスが不安気に瞳を揺らすと、ディランが安心させるように言う。
「大丈夫だ。逆に私一人では澱みを増やしすぎてしまっていて、すごく助かっている。テラス、君がきてくれて本当に良かったよ」
「本当ですか! お役に立てて、よかったです!」
ディランとテラスが目を輝かせながら、見つめ合っているのを、こほん、とミコが咳払いする。
「地獄の神は、テラスのことを幸せにしてくれますか?」
「ちょ、ミコ!? 上司に失礼だよ!」
「大丈夫だ。もちろん、地獄にいる限り最高の待遇を約束するし、テラスが希望しない限りは地獄から出すつもりは一切ない」
「それを聞いて安心しました」
そんなミコとディランの会話に恥ずかしくなったテラスは、必死に話題を変える。
「ところで、強引に作った出張理由っていうのは、さっきの“地獄の澱みが減った”件なの?」
「いや、地獄には関係ないと思うんだが、」
そう言った恋愛の神の言葉の続きをミコが引き取る。
「最近、天界でお茶菓子の紛失が相次いでてさー。センスのいいお菓子ばっかりなくなってるから、誰かが盗んでるんじゃないかって噂されてるんだけど……まぁ、地獄には関係ない話だから、強引に“地獄でも調査してきます”って理由つけて出張に来させてもらったって訳」
そう言うミコの言葉に、テラスの顔は真っ青になる。
「クロウ! お前、もらってこいっていうのは盗んでこいって意味じゃなくて、買ってこいって意味に決まってるだろ! まさか盗んできたのか?」
「いや、だって、かっさらってきますって言って、出てっていたじゃないですか?」
「まさか言葉通りに盗んでくるなんて思うわけないだろ! 今すぐに謝り倒してこい! 関係各所全て! あと、お詫びの品として少しグレードあげたものを全部の場所に配ってこい!」
「天界のルールって難しいんですね……うわっ、いってきます! 今すぐに!」
バタバタとクロウが天界に飛んでいった。
「本当に申し訳ない。まさか盗んできているとは思わなかったんだ……そう考えると、テラスのことも強引に地獄に堕としていたし……私の指導不足だ。報告書をすぐにあげよう。あぁ……まだ、野生時代の癖が抜けてないのか……」
ミコと恋愛の神に謝罪したディランは、ボソボソと嘆き悲しんでいた。
「あの、知らなかったとはいえ、私も食べてしまいました。申し訳ありませんでした」
テラスも慌てて二人に頭を下げる。
「嘘でしょ? 解決した? すぐ戻る予定が処理のために少し滞在させていただくことになるやつ?」
ミコが混乱気味にそう呟く。
「え、ミコは地獄にいたらまずいんじゃないの? 人型だし……」
「いや、テラスのいる地獄の門と事務所近辺は、人型が数日滞在しても特に問題がない程度に浄化されている。地獄の神、可能でしたら一泊だけ滞在させてもらってもよろしいでしょうか?」
「こちらの不手際だ。もちろん、解決するまでずっといてくれ」
恋愛の神は神専用の客室に、ミコは本人の希望でテラスと相部屋で過ごすこととなった。
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