Secret Garden
七草かなえ
第1話 僕の恋人
「ねえねえ、あの人美人じゃない?」
気だるい月曜日の朝のこと。
あくびをかましながら通学していたら、目の前で黄色い歓声が上がった。僕と同じ県立
つられてつい僕もそちらを向いた。
女子たちの言うとおり、美しい女の子が一人
歩調に合わせてさらり、さらりと揺れる長い黒髪。モデルとも張り合えそうな整った目鼻立ちに姿勢良くぴんとのびた背筋。
身にまとうは仕立ての良い黒生地のセーラー服。花沢高校の近くに所在する由緒ある名門女子校として名高い、私立
――なるほど。今日も美人だ。
ぽやーっと同性に見とれる女子たちの横を邪魔にならないようすり抜けながら、僕はにやける口元をこっそり押さえた。
日は変わって、翌日火曜日の放課後。
高校から電車で二駅、そこから徒歩十五分で家に着く。今日の目的地は家の近所に隠れ家のようにたたずむカフェだ。
毎週火曜と木曜の放課後はいつもここを訪れる。カフェの名は『シークレット・ガーデン』、秘密の花園の意を持っている。
年季の入ったドアをくぐれば、温かな
僕は店内をぐるりと見回して、お目当ての人物を奥のほうの席に見つけた。
「いらっしゃいませ。お好きなお席にどうぞ」
顔を覚えた店員さんに会釈を返して奥へ進む。
奥様方の談笑や一人コーヒーをたしなむ年輩方の席を通り越していく。僕らはシークレット・ガーデンの常連ではだいぶ若いほうではないかと思う。
たどりついた二人掛けのテーブル席で、一人の女の子が文庫本のページをめくっていた。タイトルとポップな表紙イラストから想像するに、恋愛小説だろうか。
彼女の前にはカフェオレが白い湯気を立てている。
長い黒髪、整った顔立ち、抜群のスタイルがまとうのは黒生地のセーラー服。
昨日の朝、通学路で見かけた彼女こそが僕の恋人。小中学校が同じだった
僕が近づけば和花さんが本から顔を上げ、その顔がほころぶ。
「こんにちは、
「お待たせ、
僕、
だからこれは秘密のデートなのだ。
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