第25話 大手事務所からの誘い
「ラビくん、無事かい!?」
闘技場に向かってから十分ほど経過した頃。肩で息をしながら悠里さんが飛び込んできた。
「悠里さん? なんで、こんなところに」
「いや、ラビくんが心配……だったんだけど、どうやら無用だったみたいだね」
悠里さんは、畳に倒れ込む
「悠里さん、負けちゃった、ごめんなさい」
莉子が涙目で謝ると、悠里さんは深々とため息をついた。
「莉子ちゃん、謝る相手が違うよ。ほら、ラビくんに謝って」
「……悠里さんにパンティを被せて、真昼間から部屋でカーセ⚪︎○スしてるような最低男に、謝るなんてありえない」
「だからパンティは……え、カーセ⚪︎○スしてたの!? 部屋で!? 広くない部屋!?」
驚愕する悠里さん。伝えるならちゃんと伝えてほしい。正確には、真昼間からカーセ⚪︎○ス動画で抜いていた、だ。いや違う。抜いてもなかった。こうやって歴史って改ざんされていくんだな。
「……ともかく、ラビくん、今すぐパンティを脱いでくれ」
「あ、はい、わかりました」
悠里さんの命令なので、ノータイムで従うことにする。
ベルトを外し、スラックスとまとめて水色縞々パンティを脱ぐと、
「……すごい」
「でけぇ……」
「やっぱ推そっ」
そんなにジッと見られたらちょっと恥ずかしいけど、おパンティンとしてのプライドがあるので隠さないでおく。
「それじゃあ、そのパンティを私にくれ!」
「あ、はい」
他人にでも見られたら悠里さんがど変態だと思われてしまうので、周囲を警戒しながら水色縞々パンティを渡す。
すると、悠里さんは俺のパンティを勢いよく被った。
「これで分かったろう! 私は私の意思で、パンティを被っていたまでのこと!! 決して、彼に無理やりパンティを被らさせられていたわけではない!!」
力強く宣言すると、パンティが破れんばかりに自分の顔をなすりつける悠里さん。
「……ああ、嘆かわしい」
そんな四人を呆れた視線を送っているのは、リング族の女性だ。悠里さんと一緒に入ってきたので、関係者だろう。
彼女は俺の方に大股で歩み寄り、上目遣いで見る。彼女の身長上、どうしても俺のモノが彼女の顔の前に来てしまうので、なんともまずい絵面だが、彼女は動揺一つない。
顔は童顔だが、その表情や所作に、身体にぴたりと合ったスーツが、彼女が大人であることを示している。
「あなたがおパンティンさんですね。私、悠里さんのマネージャーをしているものです。このたびは、うちのスタッフがご迷惑をかけました」
マネージャーさんが深々と頭を下げる。しかし、「ああ、いえいえ、頭を上げてください」と言うか言わないかで、すぐさま頭を上げた……どうやら気は強そうだ。
「……スタッフ? スタッフなんですね。てっきりインフルエンサーなのかと思っていました。全員かわいいし」
「鋭いですね。ゆくゆくはうちの事務所からインフルエンサーデビューさせる予定です。そのために、まずは悠里さんのチャンネルでスタッフをやらせているのです。よく映り込むので、あなたも見覚えがあったんじゃないですか」
「あ、はい、通りで」
正直知らなかったんだけど、悠里さんの手前、知っていたふりをする。
マネージャーさんは頷いてから、話を続ける。
「あえてスタッフスタートさせたのは、今時の視聴者はインフルエンサーに距離感の近さを求めるので、タレントとして事務所から売り出すよりも得策だと思ったからです。悠里さんのような影響力のある探索者と、実質的にコラボできて、変に叩かれないというのも大きなメリットですね。実際、彼女たちのイソスタフォロワー数は、すでに50万人を突破しています」
「へぇ〜……」
何で俺、チ○ポ丸出しでマーケティング論聞いてるんだろ……。
「しかし、あなたほどの実力の持ち主なら、そのような小手先のテクニックは必要ないでしょう」
と、マネージャーさんの子供っぽい瞳に、不気味な光が灯る。
「生配信の方見させていただきましたが、私は今後の探索者界隈が、あなたを中心に回ると確信しています……もちろん、パンティなんて被らず、ネタにも走らず、真面目に探索者活動をすれば、という条件付きですが」
そう言って、マネージャーさんは俺に小さな手を差し出した。
「単刀直入に言います。おパンティンなんて馬鹿げたチャンネルをやめにして、うちの事務所で活動しませんか?」
「お断りします」
迷わず即答すると、マネージャーさんは想定していたかのように、「そうですか。それは困りましたね」とわざとらしく眉根を下げる。
「実は今、おパンティンTVのカメラマンが悠里さんなのではという疑惑が出ているんです」
……なるほど、これは面倒だな。
「本当ですか? そんなコメント、僕は見かけませんでしたが」
「私は悠里さんで毎日パブサしているのでね。ポスト数もいいね数も少ないので、今のところ注目はされていませんが、おパンティンTVで悠里さんがカメラマンを続ければ、身バレする可能性はないわけではありません」
「言っておくが、私は何があってもおパンティンTVのスタッフをやめないぞ!!」
悠里さんが顔のパンティを脱ぎ、叩きつけて怒りを露わにする。俺のパンティなんだけどなぁ、と内心思いながらも、いそいそパンティを拾い履いた。
「分かってますよ。もう大の大人のジタバタギャン泣き姿は見たくありませんから。しかし、それならどうしましょう……そうだ。おパンティンさんと悠里さんが、コラボしたらいいんですよ」
「……コラボ、ですか?」
意外な提案に、俺は思わず首を捻ってしまう。
「それって、むしろ悠里さんスタッフ説を強固にしてしまうのでは?」
俺が世間に周知されてから、まだ二日しか経ってないんだ。
関係性のない配信者同士にしては、あまりにコラボが早すぎると思う。だったら、それ以前に関係があったのでは、と思う人もいそうなものだが。
すると、マネージャーさんはこほんと咳払いをすると、こんなことを言った。
「ヤサイチョモランマアブラマシマシカラメマシマシニンニクマシマシで」
その身体でそんなもん食うことにも驚いたが、焦点はその声だ。
悠里さんでも、マネージャーさんでもない、おパンティンTVのカメラマンの声。さすがリング、器用だな。
「私がカメラ外でこうやって喋れば、おパンティンTVのスタッフは悠里さんと別人だと証明できますよね」
「なる、ほど」
「もちろん、おパンティンTVでやっているような過激なことは全面禁止となってしまいますが、あなたの師匠である悠里さんと同じ画面でお話しできるというのは、喜ばしいことなのではないですか?」
「……うーん」
「もう! これ以上ラビくんを惑わすのはやめてくれ!」
と、戸惑う俺を見かねたのか、悠里さんが俺とマネージャーさんの間に割って入ってくる。そして、俺に耳打ち。
「こんなこと言ってるけど、彼女は今一番勢いのあるおパンティンTVとコラボして、数字を得ようとしているだけだ! 全く、見事な手のひら返しだよ。バズる前までは、配信でおパンティンTVのおの字も出さないようにって言っていたのに!」
「パンティを被ってる変態底辺配信者と関係性があると思われたらイメージ低下につながりますし、今はパンティを被っていることを加味しても素晴らしい配信者になったので、手のひらを返すのは当然のことですよ」
「……むむむ」
頬を膨らませる悠里さん。関係性は良好、とはいえないが、そこまで悪くもなさそうだな……良かった。何気に心配していたんだよな。
しかし、コラボ、ね。この不寛容な社会じゃあ、どれだけバズっててもパンティを被った男は変態扱いだから、コラボによるイメージ低下は免れなさそうだが……いや、それでいいのか。
悠里さんが変態と絡めば、悠里さんの”清廉潔白”というイメージを、少し変えることができるかもしれない。その程度ならスポンサーも撤退しないだろうし、案外ちょうどいいのではないか?
……いずれ、初代おパンティンとして、二代目おパンティンとコラボできる日も来るかもしれない。
「……実は、車を一台欲しいなと思っていたんです」
「え、絶対カーセ⚪︎○ス用の車じゃん♡ ヒメはいつでも大丈夫だよぉ♡」
頬を染める姫乃をとりあえず無視して、話を続ける。
「中古で大丈夫なのですが、できることなら大型車が欲しいんです。もし、スター・サージカルで報酬として用意してくれるのなら、僕はコラボの方、構わないです」
「ちょ、ちょっとラビくん、そんなの私が用意するから!」
「何を言ってるんですか悠里さん。うら若き男子高校生に成人女性が車をプレゼントなんて、ママ活を疑われますよ……承知いたしました、迷宮さん。こちらで用意させていただきます」
マネージャーさんが、再び小さな手を俺に差し出す。
「それでは、早速で悪いんですが、明日、生配信でコラボの方、よろしくお願いしますね」
「え? それはまた、ずいぶん急ですね」
一応、昨日ダンジョン探索したばっかなんだけどな。
「はい。数字は
「はは……」
やっぱりそれが本音かと苦笑いしながら、俺はマネージャーさんの手を取った。
しかし、もう二度と生配信をしなくて済むと思ったのになぁ……まぁ、最初からネタに走るのを禁止されてる分、気楽は気楽だけどさ。
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