第23話 次の動画はドラゴンカーセ⚪︎◯ス
配信終了後、俺は生配信ゆえ編集の必要もなかったので、寮に戻り、疲れからか泥のように眠った。そして朝、起きると、いつもより遅い時間だったのに眠気を感じるほどだ。
今日は日曜日。流石に昨日の今日で撮影を入れたら悠里さんが大変だから、予定は何もない。そのまま寝ようかとスマホを見て、眠気も一瞬で吹き飛ぶ。
昨日の生配信のアーカイブの再生回数は、一晩で1000万回再生、そして登録者は100万人を突破。どうやら世界最短記録らしい。
Yでは『おパンティンTV』関連のワードがトレンドを席巻。DMにはコラボ依頼のメッセージが雪崩れ込んでいた。
挙句の果てに、ダンジョン庁からの呼び出しだ。あいにくそんな暇はなかったので、元々ダンジョン庁にいる知り合いに丸投げしておいた。
こう言った爆発的なバズりを経験したのは、早くも二度目だ。しかし、その時と比較して明らかに違うのは、その反応のどれもが好意的なものであることだ。
『おパンティン強すぎる!!!』
『ついに世界に通用する探索者が見つかった!』
『フェイクって疑ってすみませんでした!!!』
『パンティかぶってるからそっちに目が行ってたけど、よく見たらカッコよくない!?』
『パンティ買いたんだけど、どうせならおパンティンTVからグッズで出して欲しい!』
「……まいったなぁ」
しかし、手放しに喜べない。ダンジョン探索者としては評価されたが、ネタ系配信者としての俺は依然として評価されていないのだから当然だ。
(俺は強さじゃなくって、動画の面白さを評価して欲しいんだけどなぁ)
ま、世間の反応をコントロールできるとは思ってない。動画がフェイクだ、なんて不名誉にも程がある疑惑が解けたのだから、最低限の結果は出たと納得しよう。
「……次の動画が重要だな」
再び戦ってみた系でもいいけど、今の強いおパンティンを求める視聴者が、また変な目で動画を見ても困る。それに、二回連続同じような企画っていうのも芸がない。
「となると、もっとネタ系とわかりやすい企画がいいな……」
企画の段階でくすりと笑えるようなものにしておけば、俺の演者としての未熟さもある程度補えるはずだ。
実のところ、企画には結構自信がある。何せ、おパンティンTVで初めて再生回数が一万回を突破した動画『マンドラゴラの絶叫をカラオケ採点したら何点取れるのか?』は、俺が悠里さんに提案した企画なのだ。
「さてさて、頑張るぞいっと」
寝巻きから制服に着替え、買い込んでおいたエナジードリンクのプルタブを開けると、一気に飲んで気合いを入れる。
俺の企画の考え方として、まずタイトルに使うワードを一つ決めて、そこから派生させていくというものが多い。
『マンドラゴラの絶叫をカラオケ採点したら何点取れるのか?』も、まずはマンドラゴラと言う”ダンジョンワード”を設定するところから始めた。
マンドラゴラといえば、地面から抜いた際の絶叫が有名。その絶叫に耐える、というところで、どんな動画でも身体を張るというおパンティンTVの信念をひとまず満たせる。
そこに、いかにネタ要素を加えるか……と考えた時、その絶叫をカラオケ採点させたらいいんじゃないか、と思い至ったわけだ。
ともかく、このワードが動画を決めると言っても過言ではないくらいなので、普通は複数の候補を用意しておくのだが、今回はもう一つに絞っている。
「火竜、か……」
生放送を含め、三回連続で火竜を使うのは芸がない、というのは、確かにその通り。
しかし、俺にはどうしても火竜を使いたい理由がある。
「やっぱウケてたよな、火竜ハンマー」
メンタルがやられそうなのでアーカイブは見返せそうにないが、確かに草の生えたコメントを見た。あの生配信で、唯一手応えを感じた瞬間だ。
「今の俺には、とにかく保証が必要なんだ」
情けないのは承知の上。伝説のネタ界配信者、おパンティンの後を継ぐのだから、これ以上スベることは許されないんだ。
ルーズリーフの中央に火竜と書いて、その周りに火竜と組み合わせたら面白そうなワードを羅列していく。
そして、ルーズリーフを二十枚ほど消費したところで、俺は叫んだ。
「これだ!」
『火竜に自動車をプレゼントしたら、ドラゴンカーセ◯クスしてくれるのか?』
「っしゃっ!」
俺は思わずガッツポーズをしてしまう。これは紛うことなきネタ検証系であり、ドラゴンカーセ⚪︎○スという、非常に”ヒキ”のあるワードも使えている。
そして、道中でのリアクションも期待できる。車を運んで魔物と戦わないといけないという制限は、面白いリアクションを導き出してくれるはずだ。
「問題は経費だな……」
収益は月末に振り込まれるので、それまで待つか……駄目だ、一刻も早く撮りたい。こうなってくると、ミスリル金属をブリーフンにあげちゃったの、ちょっともったいなかったな。
ちなみにブリーフンは、俺があれ以上ミスリル鉱石を持っていないとわかると、「ふん」と鼻を鳴らしてどっかに行ってしまった。
ま、俺としてもそっちの方が助かったのだが、あそこまで淡白だと寂しいもんだ。もふもふ配信なるものも人気があるらしいから、今後もふもふで面白いネタが思いついたら、こっちから会いに行ってもいいかもしれないな……。
「ん? ひとまず、未成年って車買えるのか?」
調べたところ、未成年は、親の同意が必要なようだ……なら、金銭面でも、準備の手間でも、悠里さんに頼らないといけない。
申し訳ない、けど、少なくとも金銭の方は、収益ですぐに補填できるはずだ。
「っと」
その時、スマホが鳴った。ちょうどよく、悠里さんからの電話だ。てか、もうお昼か。集中していたんだな。
スマホを取る。
「悠里さん、ちょうどよかった! 相談したいことが」
『ラビくん、逃げて!!』
「え……?」
――いる。
部屋の外。三人ほど、息を潜めて俺を伺っている。
こんなに近づかれるまで気づけないとは、集中しすぎた……いや、それもあるけど、単純に手練れなんだ。
これほど上手に魔力を抑えることができるということは、探索者で間違いないが、このレベルの使い手は、この学校にもそう多くはない。おそらく
コンコン。
ノック。気づいたことに気づかれたようだ。
「悠里さん、終わったらかけなおしますね」
『ラビくんっ!』
俺はスマホをポッケにしまい、扉まで歩いていく。扉の前の気配は微動だにしない。俺はドアノブを捻り、ゆっくりとドアを開けた。
「……ふぇぇ?」
そして、思わず平成の萌えキャラのようなリアクションをしてしまった。
目の前にいたのは、うちの高校の女子制服に身を包んだ、三人の
左から、狼人、猫人、兎人か。
タイプは違うが、三者三様見目麗しく、この学校にいたらファンクラブの一つや二つできそうなものだ。
……左から、スポーティなグレーのボクサーパンツ、フリルのついた可愛らしいパンティ、黒のスケスケTバック。
そんなケモ耳美少女たちがスカートを思いっきりたくし上げていたのだ。
「ふぇぇぇぇ!?」
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