第21話 火竜ハンマー
>ファッ⁉︎
>なんじゃあこりゃああ!?
>あーあ、使い心地って言っちゃったよ
>火竜が戦ってるって程はどうした?
>【悲報】火竜さん、魔物の王からハンマーに成り下がってしまうwww
>なんか、真面目に探索者やってるのが馬鹿らしくなってきた。火竜だぞ火竜。いつか倒したいと思ってた魔物がこんな扱いなんて……
>泣けるよな
>火竜の鱗や牙で武器を使った探索者はいれど、火竜そのものを武器にした探索者は初だろうなwwww
「ん?」
今、コメント欄に草が生えていたように思ったが……気のせいか?
「バウッ!」
もふもふ犬はというと、余裕を持って火竜ハンマーを回避した。俺はすかさず「うらぁっ!」と、火竜を思いっきり横に引きずって追撃する。もふもふ犬はやはりひらりと回避。どうやらコメント欄を気にしている余裕はなさそうだな!
「それじゃあこれならどうだ!」
俺はペッペと手のひらに唾をかけ、今度は尻尾の先の方を掴み直す。
そして、腰を落としてグググっと身体を捻ると、そのままぶんと火竜を振り回す。
「ぐぼああああああああああ!?!?!?」
そしてそのまま、ハンマー投げの要領で、火竜をぐるぐる回転させ続けた。
火竜の口から引火剤にもなるゲロが飛び出て、火竜の顎と地面が擦れて散った火花に火がつく。もふもふ犬が出現させた氷が溶けていき、地獄で格闘技があるのなら、リングはこんな感じだろうという様相になった。
「わうっ」
もふもふ犬は「きたなっ!」とでも言いたげな顔で、大きな翼をはためかせて飛び上がった。
「今だ!」
俺は回転の力をそのままに、火竜の尻尾を肩に担いだ。
そして、背負い投げの要領で、飛んだもふもふ犬目掛けて、火竜をぶんと上に振った。
「キャンッ!?」
よし、命中! もふもふ犬は、火竜と一緒に地面に叩きつけられたのだった。
「よっしゃっ! うまくいった! 俺と火竜の初めての共同作業のおかげだなぁ!」
俺は火竜の尻尾から手を離し、カメラ目線でアピールするが、コメント欄の反応は芳しくない。
>きょ、協力!?!? これが協力!?!?
>ファッ!?
>よくもまあ、いけしゃあしゃあと……。
>数年後火竜に、「本当は嫌だったのに……」って訴えられる可能性大だな
>女さんはせめてこんくらいやられてから被害者ぶって欲しい
>こんくらいやられたら被害者ぶるまでもなく死んじゃうぞ
「……ワウッ!!」
すると、怒気を孕んだ鳴き声。見ると、もふもふ犬が、すっかり伸びきった火竜の上に立っている。
確かに直撃したはずだが、本当にタフだな。火竜も見習って欲しい。
「ぐるるるるるぅ……」
もふもふ犬は、牙を剥き出しにして俺を威嚇している。どうやら怒らせてしまったようだ。どうしたものかな……ん?
「お前、もしかして……」
俺は、タイツに手を突っ込む。
そして、なかなかのフィット感にすっかり忘れていたミスリル鉱石を、もふもふ犬に差し出した。
「これ、いる?」
「バウ!!」
すると、不機嫌面だったもふもふ犬の顔が、パッと明るくなる。
そして、俊敏な動きで火竜から飛び降りると、ミスリル鉱石を俺の手ごとばくりと咥えた。
「おいおい、痛いな!」
慌てて引き抜くと、ミスリル鉱石だけもふもふ犬の口の中に残る。
ガリッ、ゴリッ、ボギッ。
>は?
>え?
>食った?
なかなか耳に優しくない音が、もふもふ犬の口から聞こえてくる。しかし、尻尾と羽根をバダバタ振っているので、どうやら喜んでいるようだ。
「威嚇して牙を剥き出しにした時、犬のくせに、ずいぶん平たい歯が多いなと思ってたんだ」
魔物は基本魔力でできているので、活動を維持するには食事で魔力を補強する必要がある。同じ魔力の塊である魔物を捕食したり、魔力のある魔石を食べる魔物もいる。そのタイプの魔物と、もふもふ犬の歯並びがそっくりだったのだ。
その上、魔法も鉱石を産みだすもので、額にも謎の鉱石あり。そして、やけに俺の股間を凝視していたことから、もしかしたらミスリル鉱石に興味があるのではないかと考えるのは、突拍子もない発想でもない。
「けぷっ」
もふもふ犬はゲップをすると、ふあぁとあくびをする。ミスリル鉱石はどこにも見当たらなかった。
>うええええええええええええええええええええええ!?
>もったいねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ
>いますぐ吐き出させろ!!!
>はい国家予算レベルの損失
>ミスリル鉱石を食べるとか、この犬頭おパンティンかよ!?!?
>おパンティンを化け物的表現に使うんじゃない
>ミスリル鉱石ってのもあるが、何より長時間股間に仕込んでたもんだぞ。何ならちょっと湯気あがってた
>これ動物虐待だろ
>魔物は動物じゃないのでセーフ
「くぅぅぅ〜ん」
すると、俺たちの周りを囲っていた風の堅牢が解けた。
ミスリル鉱石を食べ終えたもふもふ犬はと言うと、甘えるような声を上げながら、俺に擦り寄ってくる。
こんな罠を仕掛けてくる魔物でもないだろう。頭を撫でてやると、もふもふ犬は嬉しそうに喉の奥で唸った。
もしかしたら、元からミスリル鉱石が目的で俺のところまでやってきたのか……いや、これほどの魔物にダンジョンの主が自由を与えているとは思えないから、やはり刺客は刺客だったんだろう。
俺が大好物? のミスリル鉱石を持っていることまでは、ダンジョンの主も把握してなかったんだろうな。
ともかく、いっても鉱石一つで超主力級の魔物がここまで見事に寝返るとは……なんか、代々木ダンジョンの主に申し訳なくなってくるな。
>え、なんかめっちゃ懐いてる!?
>おいおい、これテイムできたんじゃないか!?
>SSSをテイムって史上初じゃないか!? ヤバすぎんだろ!?
>ミスリル鉱石でテイムできる魔物ってなんだよ!?
>こう見ると翼の生えた大型犬って感じだな
>かわいい
>え、めちゃうらやましい。なでたい
>他のもふもふ系配信者を過去にするくらいのもふもふ具合だ……
>おい、タっくんから浮気すんのかよ
>タッくんはペットじゃなくて親友だろ
>もしオフ会とかする予定あるなら、ぜひ連れてきてもふらせてくれ。金ならいくらでも出す
「あ、俺寮だから犬とか飼えないんで」
コメント欄がなんかこのもふもふ犬を飼う流れになっていたので、慌てて付け加える。
>ええええええええええええええええ😭
>いや、それはもったないなすぎる!! どうにか何ないのか!!
>てか、おパンティン学生だったのか!?
>学生でこの強さはエグすぎだろ!?!?
>ヒストリアなら学生くらいが全盛期だろ
>イヤイヤ、流石に社宅じゃない?
>ていうか、火竜はどうすんの?
「あ、そうだったそうだった」
コメント欄はもふもふ犬に夢中で、俺も一瞬忘れていたが、本題は別にある。
「さて、待たせたな火竜」
俺は火竜に向き直る。すると、もふもふ犬まで俺の横に立って、一緒になって火竜を睨み付ける。いや、お前も戦いに加わられると困るんだけどな。
火竜は、そんな俺たちを爬虫類の瞳で見つめる。
「…………ぴぃっ」
そして、なんとも情けない悲鳴をあげて、踵を返して逃げ出したのだった。
>マジか!?
>ええええええええええええええええ
>火竜が逃げたあああああああああ!!!
>火竜さん(泣)
>なっさけない……
>俺とか、火竜を目の前にしただけでおしっこちびって逃げ出したってのに……泣きそうだよ
>火竜を目の前に出来てる時点で、お前は超一流の探索者だよ
>SNSでも、有名探索者たちが続々自信喪失してってるし、今回の生配信で引退決断する探索者も多そう
……やれやれ、これじゃあ再現はできそうにないな。
「ま、せめてこれだけやっていくかな……カメラマンさん!」
俺は悠里さんからひのきのぼうを受け取ると、そのまま勢いよく振るった。
ビュン!!!!!
風切り音と共に、散らばったゲロ火がフッと消えた。スタコラサッサと逃げていた火竜の足が、ぴたりと止まる。
「……?」
火竜が不思議そうに首を捻ると、契機になったのか。
ずるり。
火竜の巨体が斜めにズレた。
そして火竜は、大量の血飛沫を上げながら真っ二つになったのだった。
>えええええええええええええええええええええ!?!?!?
>マジかあああああああああああああああ
>やっば
>すげええええええええええええええええ
>これマジ?
>グッロ
>火竜さんwwwwwwwwwwwwwwwww
>火竜さん真っ二つ
>火竜虐にもほどがあんだろ……
>火竜さん可哀想すぎる( ; ; )
>俺探索者辞めるわ……
>ひえええええええええええええええ!!!
>【朗報】世界一の探索者、決まる
>おパンティン最強!! おパンティン最強!!
「バウワウ!」
もふもふ犬が吠えると、再び風の魔法が俺たちを取り巻く。今度はいい感じに血飛沫をはじけ飛ばしてくれた。
なかなかいい働きだが、やっぱり飼ってはやれないので、そんなつぶらな瞳で見ないで欲しい。
俺はふいっともふもふ犬から視線を逸らし、カメラ目線になってこう言った。
「まぁ、ということで、そろそろ時間もアレなんで、今回はこれで終わりにしようと思う! 残念ながら前回の動画の再現はできなかったんで、今度は下層で火竜と戦うところから生配信を始めるから、まぁ勘弁してほしい!」
>いやいやいやいや!?!?!?
>もう十分です!!!!
>これ以上火竜をいじめないであげて( ; ; )
>フェイクとか言ってすみませんでした!!
>チャンネル登録しました!
>マジでスパチャ解放してくれ!!!
>同接50万突破!!!!
>海外でもめちゃくちゃバズってる!!!
>俺もパンティ被ってダンジョン潜ってみます!
>俺は実家の神棚にパンティ飾ります!!
>お母さんが心配するからやめなさい!!
>そんなことよりもふもふ犬、おパンティンさんが名前つけないと!
「ああ、そう?」
それは助かる。正直、もう生配信は二度とやりたくなかったからな。
「えー、それじゃあ……これで終わることにする! あ、チャンネル登録もよろしくお願いします」
>え、もう終わっちゃうの!?
>やだあああああああああああああああああああ
>マジで今から質問コーナーしてくんないかな。聞きたいこと山ほどあるんだけど
>次の配信いつ!?
>待って待って、そのもふもふ犬に名前をつけないと!
「いや、だから飼えないんだって」
>飼わなくても、新種を見つけた人にはその魔物の学名の命名権があるんです!
「ああ、なるほどね」
もふもふ犬をじっと見る。
一瞬、大喜利でもしてやろうと思ったが、胸がずきりと痛んだのでやめた。なんかトラウマになっちゃってるけど大丈夫かこれ。
特徴としては、鉱石を使った魔法が使えるのと、もふもふ、色は純白で……純白か。
「パンティーン……それだとおパンティンと被っちゃうか。パンティ=白ってわけでもないし」
>危ねぇ!!
>セーフ!!
>これは神回避
>パンティを被ってる奴が被りとか気にすんなよ
>誰うま
>ちな俺は黒派
>誰も聞いてないで童貞
>とりあえず、最悪の結末は回避されたか
「それじゃあ、ブリーフンで!」
「バウ!」
>ああ……。
>最悪の結末の先に最悪があったよ
>かわいそう
>まだ”ン”をつけてくれたことに感謝しよう
>いや、その結果フリー○ンみたくなってるから一長一短かも
>フリーレ○ならそのうちコラボしてくれそう
>せっかくのもふもふが白髪ち○げに見えてきて鬱
>白=ブリーフっての違うだろ。現に俺は蛍光グリーンのブリーフ履いてるし
>え?
>蛍光グリーンのブリーフwwwきっしょ
>どこで売ってんだよそんなの……
>わからん。おかんに買ってきて貰ってるから
>えぇ……
と、なんとも変な空気になりつつ、俺の初配信は幕を閉じたのだった。
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これでダンジョン生配信編は終了です!
これからも毎日投稿続けていきますので、面白いと思っていただけたら↓の☆やフォローなどで応援いただけますと大変励みになります! あともう少しで週間総合100位以内に入れますので、どうかよろしくお願いいたします!!
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