第9話~バルベリーニ王国、第三王子アンジェロ・バルベリーニ~
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「そうか。だからどうした? 王子だからとて、校内で暴力事件を起こせば処罰の対象だ」
「なっ!?」
予想外の返答だったのか、王子様は俺の言葉を聞くと顔を真っ赤に染め上げる。
アンジェロが拳を握り込んで力を込めた。
「不服か?」
「僕が父上に頼んだらいくらあなたでもただではすまないぞ!!」
アンジェロは奥歯を強く噛みしめながら一歩前へ踏み出してきた。
頭に血が上り、全身が震えている。
よほど王子である自分が偉いと思っているらしい。
確かに王家の血を引く人間であり、血筋上は高貴な立場にあることは理解できる。
だが──
「ではそうしてみろ。そうしたら、俺は他の国へ行くだけだ」
「っ!!」
俺の言葉に一瞬でアンジェロの顔が青ざめる。
王子のわがままで俺へ処罰を与えるような王のいる国なんてこちらから願い下げだ。
(だいたい、なんでこの子はバーバラを目の敵にしているんだ?)
ちらりと横を見ると、バーバラが心配そうにこ 安心させるように大きく頷いてみせると、安堵した表情を浮かべた。
「お前みたいな無能はすぐに学校を去ることになる!! いいか!? よく覚えておけよ!!」
アンジェロはそう言い放った後、足音荒く歩き去っていった。
残された俺とバーバラの間には微妙な空気が漂っている。
──グゥゥ~
静かな空間に俺の腹から音が響き渡った。
(なんでこのタイミングで鳴るかなぁ……)
羞恥心を隠すため、バーバラから顔を背ける。
すると、隣からクスクスという小さな笑い声が聞こえてきた。
「ふふっ! そんなにお腹が空いているの?」
楽しそうな笑顔でそう言われたものだから、余計に恥ずかしさが増した気がする。
「少し事務作業に時間を取られてタイミングがなかったんだ」
恥ずかしさから、ぶっきらぼうにそう言い返すことしかできなかった。
そんな俺を見て笑うバーバラ。
さっきまで怒っていたはずなのに、雰囲気が変わるのだから不思議なものだ。
「食堂の場所なら案内できるけど、一緒に行く?」
「頼む。道に迷っていたから助かる」
「フフッ、任せて」
俺は素直にお願いをして、バーバラの横を歩く。
「どうしてあの王子はお前にあんなことを言ってきたんだ?」
歩きながら尋ねると、バーバラは表情を曇らせた。
「私とアイツは幼馴染なんだけど、急に今みたいに突っかかってくるようになったの」
苦々しい顔で話しだすので、相当なことが過去にあったのだろうと推測される。
「昔は仲良かったんだけどね……最近は会っても嫌味ばかり言ってくるのよ」
寂しそうにそう言うバーバラの横顔を見て、同情せずにはいられなかった。
「お前も大変だな……」
「いえ? 全然?」
俺が小さくそう言うと、バーバラは首をかしげて否定してきた。
「そうなのか? 第三王子からあんな対応をされたら嫌だろう?」
「あいつのことは全く気にしていないから大丈夫よ」
あっけらかんと言って笑っている姿に、先ほどの悲しみ表情はなんだったのかと首を捻ってしまう。
(まぁ本人がそう言っているんだし、あまり踏み込んでやる必要もないか)
俺は納得してそれ以上の詮索はしないことにした。
そんな他愛のない会話をしながら歩いていると、美味しそうな匂いが漂ってきた。
「あそこが学生用の食堂よ。教師用は……向こうみたい」
彼女が指さす先に視線を向けると大きな建物と小さな建物がある。
大きな方は大講堂と同じくらいの広さがあり、【学生食堂】と看板が出ている。
もう一方は職員専用のようで、生徒より小ぶりの建物だった。
小ぶりと言っても、学生食堂よりはという程度であり、普通に考えればかなり大きい。
屋根付きの立派な造りをしており、清潔感があった。
「案内をしてくれてありがとう。助かった」
「どういたしまして……それで……その……」
お礼を言って頭を下げると、バーバラが言い難そうに何かを言おうとしていた。
気になって声をかけようとした時、バーバラが少しずつ横へ動き始める。
「えっ!? えっ!? えっ!?」
バーバラは混乱した様子で声を漏らす。
まったく足を動かしていないにもかかわらず、バーバラは職員用食堂に吸い寄せられていた。
体を左右に揺らしたりしているが、まるで見えない手に引っ張られるように体が動いていく。
「ワシの魔法でも、ラビには無力化されるようじゃの」
いつの間にか音もなく近づいてきていたのはザックさんだった。
その顔は楽しそうに笑っており、いたずらに成功した子供のようにも見える。
「なにやってるんですか……こんな悪ふざけをする人じゃないと思っていたのに……」
「いやいや、すまんのう! 事務局からお主が出たと聞いて待っていたが、一向に現れなかったもんでな」
謝罪してくるが、悪びれた様子は全く感じられない。
むしろ楽しげな雰囲気すら漂っていた。
「それに、バーバラ嬢と一緒なのはちょうどよかったわい」
「丁度よかった? それはどういうことですか?」
俺が尋ねると、ザックさんは真剣な表情に変わった。
「食事をしながら話をするとしよう。バーバラ嬢の在校条件についてじゃ」
「わかりました」
俺はザックさんの言葉に頷き、一緒に職員用食堂に吸い込まれていったバーバラを追った。
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お読みいただきありがとうございました。
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