第8話~ラビの挨拶~

ご興味を持っていただきありがとうございます。

この話も楽しんでいただけたら幸いです。

よろしくお願いいたします。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 教壇に両手をつき、前のめりになった状態で口を開く。


「これからよろしく頼む」


 それだけを言うと、再び静寂が訪れる。

 生徒たち全員が俺の顔を見上げており、瞬きひとつしない。


(まだ何か言わなきゃいけないのか!?)


 心の中は動揺しつつも、決して表情に出さない。

 何か言うことはないかと必死に記憶の引き出しを探っていると、フランシスの話が浮かんだ。


(よし、これならいけるだろ!)


 意を決して声を出す。


「俺は新しく開講された【魔法に対する防衛術】を担当する。初めて人に教えるため、至らない点があると思うが、それでもよければ受講してくれ」


 言い終えてから一礼すると、途端に大きな拍手が巻き起こった。

 顔を上げた俺の目に満面の笑みを浮かべる生徒たちが映る。

 誰も彼も瞳を輝かせ、尊敬の眼差しを向けてきていた。


(こんな表情を向けられる日が来るなんて思わなかったな)


 生徒たちを眺めていた俺は、驚きと照れ臭さで口元が緩んでしまう。

 そんなとき、不意にひとりの生徒と目が合った。

 赤色長髪の彼女はこちらを見て固まっている。

 その表情はなにかをとても心配しているように見えた。


(バーバラ……一緒に魔法を学ぶって約束していたもんな)


 教師になってしまったが、俺は彼女との約束を破るつもりはない。

 俺の斜め後ろにいるザックさんもバーバラのことを承知のはずだ。


(バーバラの爆発から校舎や生徒を守る必要がある!)


 俺はバーバラと目を合わせたまま、小さく頷く。

 バーバラは一瞬目を見開き、すぐに笑顔を浮かべた。

 それが確認できた直後、背後から咳払いが聞こえてきた。


「コホンッ、ラビ、そろそろいいか?」


 後ろを向くと、ザックさんが微笑みながら立っている。

 俺も笑顔で応えることにした。


「はい。ありがとうございます」


 そう言って視線を戻すと同時に、今までで一番大きい拍手が巻き起こったのだった。


3時間後──


(ようやく終わった……手続きにこんな時間がかかるなんて……)


 大講堂での挨拶を終えた俺は、学校の事務所で教師になるための書類と戦った。

 事務の職員によると、王国から治外法権を認められているだけあって内部の規則が多いのが原因らしい。


(それにしても長すぎるだろう!!)


 1枚1枚に署名を求められるわ、給料や休日なんかの説明もあるため、3時間もかかってしまった。


(やっと解放された……腹が減ったけど……ここはどこだ……)


 今は事務員の人がくれた地図を片手に、空腹を抱えて歩いているところだ。

 職員用の食堂へ向かいたいのだが、なかなか辿り着かない。

 親切な事務員さんが案内を申し出てくれたのを断らなければよかった。


(だから断った時にあんなに心配されたんだな……反省しよう)


 そんなことを思いながら歩き続けていると、建物の陰から声が聞こえてきた気がしたので、足を止めて耳を澄ませる。


「──ないだろ!!」

「──じゃないわよっ!!」


 複数の男女が言い争っているような声だった。

 気になり、足音を立てないよう注意して近づいていく。


(あれは男子生徒と……バーバラ!?)


 二人の男子と向き合う形で、バーバラが立っていた。

 二人は怒りの形相で、特にバーバラは今にも飛びかかりそうな勢いだ。


(一体どうしたんだ……?)


 疑問に思い、角の手前まで進んでみることにして聞き耳を立てることにする。

 目の前で起こっている出来事とはいえ、事情を知らずに割って入るのはどうかと思ってしまったのだ。

 すると、少しずつではあるが会話の内容が耳に入ってくるようになった。


「どうやったら魔法を使えないお前が下級魔法学校に入学できるんだよっ!! 不正入学だろう!!」


 そう叫んだのは、金髪金眼の美少年だった。


(あの子はどこかで見たような……どこだったか……)


 記憶の糸を手繰り寄せていると、バーバラが男子生徒につかみかかった。


「そんなわけないでしょう!! 私は試験に合格して入学したのよ!! 無条件で入れたあんたとは違うわ!!」

「無能は大人しく家に引きこもっていろよ!!!!」


 バーバラに襟をつかまれた男子生徒も、仕返しと言わんばかりに腕を振り上げる。

 男子生徒の手が振り下ろされる直前に俺は飛び出す。

 両者の間に割り込み、振り上げられた拳を手のひらで受け止める。


「そこまでだ。バーバラも手を離せ」

「なっ!?」

「ラビ!?」


 突然現れた俺に対し、二人が驚愕の表情を見せた。

 バーバラの手から力が抜け、金髪の少年は数歩後退りをする。

 俺も手を離すが、金髪のイケメン君は敵意のこもった視線を向けてきた。


「教師であるあんたには関係のない事だ」


 そう言われて、思わず顔をしかめてしまった。

 俺に言い返していた金髪の少年は俺が誰かわかっているうえでこんな態度を取っている。

 それに初対面なのに高圧的な態度は、爵位の高い貴族の子供だからだろう。


(公爵家のバーバラにこんな態度は……同じ公爵家か王族だな……しかし、わからん)


 公爵家以上の貴族であることまでは推理できても、個人の名前まで把握していない。

 知らない人の方が多いので、考えるだけ無駄だ。

 俺は毅然とした態度のまま話しかけることにした。


「校内での暴力沙汰は教師として見過ごせない」


 俺の発言を聞いて金髪君の表情がさらに険しくなる。


「僕が誰かわからないのか!? 僕はバルベリーニ王国の第三王子であるアンジェロだぞ!」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


お読みいただきありがとうございました。

次回も書き上げたら更新させていただきます。

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