第6話~大講堂へ~

ご興味を持っていただきありがとうございます。

この話も楽しんでいただけたら幸いです。

よろしくお願いいたします。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「あそこで入学式が行われているんですよ」

「立派な建物だな」


 俺の前を行くフランシスが立ち止まると、大きな建物が見えてきた。

 俺も視線を向けるへ入ると、思わず感嘆の言葉がこぼれた。

 赤レンガでできた三階建ての講堂は荘厳な雰囲気を漂わせている。

 両開きの大きな扉の左右には2人の男性が立っていて、入館者の確認をしているようだ。


(この学校は厳重な警備体制が敷かれているのか……さすが独立運営を任されている魔法学校だな)


 門の前にいる二人は白色のローブに身を包んでいるため、表情などは窺えない。

 向かって右側の男が胸ポケットから数枚の紙を取り出して眺めていた。


「先輩、新入生や在校生と鉢合わせないため、私たちは裏から入ります」

「ん。了解だ」


 フランシスが人がいない道を歩きながら大講堂を目指す。

 そんなフランシスの横に並び、気になっていたことを聞く。


「俺はこの学校でなにを教えればいいんだ? 自慢じゃないが、教えられるような魔法は使えないぞ?」


 俺は一つしか魔法を使うことができない。

 そんな俺が下級魔法学校で魔法を教えるなど不可能だと思われたが、フランシスはなぜか嬉しそうに笑った。


「安心してください、先輩が魔法を使う必要はないです」

「魔法が必要ない? すまん、意味が分からないのだが……」


 俺の言葉に頷いたフランシスが説明してくれる。


「【魔法防衛学】という科目があるのですが、それは本来、魔法に対する防御に関する理論だけを学ぶんです」

「つまり座学だから魔法を使わなくてもよいということか?」


 確かにそれなら魔法の発動は必要ないだろう。

 ただ、希望を胸に抱いて入学してきた生徒に対して座学のみの授業はいささか酷ではないかと思ったのだ。


(座学だけなんて俺なら受けたくないが……魔法対策は大切なことだ……教えられるのか?)


 俺の表情を読み取ってくれたのか、フランシスが微笑みながら答えてくれる。


「今年から【魔法に対する防衛術】という授業名に変わったんです」

「それなら俺が教えられると?」

「灼熱の炎よ!! かの者を焼き尽くせ!!」


 質問をした途端、フランシスが杖を取り出して炎の攻撃魔法を放ってきた。

 俺に覆い被さるように出現した真っ赤な火炎の壁が周囲の気温を一気に上昇させる。


(中級魔法……こんなもんだろうな)


 この程度の魔法ならイージスを使うまでもない。

 俺を覆う炎を払い除けるように手を横へ動かす。


「やっぱり、先輩以上に適任はいないと思います」


 2メートルはある燃える壁が消え去った後、フランシスは得意げな表情でそう言った。


------


「それでは、しばらくここで待っていてください」

「ああ、案内してくれてありがとう」


 大講堂の裏口から入った俺は、小部屋に通された後にフランシスと別れた。

 一人になった俺は部屋にあったソファーへと腰を降ろすと、天井を眺める。


「魔力を放出できない俺が魔法学校の教師か……何の因果だろうな……ん?」


 深いため息を漏らすと同時に部屋の外に気配を感じた。


──コンッ……コンコンッ……


 誰かが扉をノックしてきている。


「どうぞ、お入りください」


 俺は声を出すと同時に立ち上がり、訪問者を出向かる。


「ラビ、教員になることを引き受けてくれたようじゃな」


 扉を開けて入ってきたザックさんはとても嬉しそうな声色だった。


「はい、これからよろしくお願いします」


 軽く頭を下げながら挨拶をすると、ザックさんの後ろから青い短髪の男性が現れた。


「さっきぶりですね、ラビさん」

「えっと……たしか、アシュリーさんでしたっけ?」


 最初に俺へ導きの扉を使ってくれたアシュリーさんがにっこりと笑いつつお辞儀をする。


「そうです。僕と以前会ったことは思い出していただけましたか?」

「いや……申し訳ないですが、名前を聞いても全く覚えがないのです」


 実際、彼の顔を見てもなにも思い出せない。

こんな容姿の整った男性に会ったら絶対覚えているはずなんだが……全然記憶にない)

 俺の言葉に苦笑いするアシュリーさんを眺めてもまったく駄目だ。

 そんな俺を見てザックさんが長白髭を撫でながら口を開いた。


「アシュリーは元々長髪で、お主は彼のことをアッシュと呼んでいたが……それでも思い出せぬか?」

「水魔法のアッシュだろう? それなら……お前あれだけ大切にしていた髪を切ったのか!?」


 ザックさんに言われ、【アッシュ】に関する記憶が一気に溢れ出してきた。

 たしかにアッシュという男の髪色は青色で、長さも肩にかかるほどだったはずだ。

 とても髪を大切にしていたので、短髪になった目の前のアッシュを見て思わず声が大きくなった。


「本当にアッシュなのか……」


 改めて聞いてみると、確かに言われてみれば面影があるように見える。

 驚きの表情を向けていたら、アッシュは笑顔で頷く。


「はい、冒険者を辞める時にバサッと」


 青色の髪に手を当てて梳いていくアッシュ。

 短髪でも、その動きに合わせて髪の毛がサラサラと舞い落ちていくように感じるほど丁寧に手入れされている。


「そうだったのか……その……なんだ……見違えたな、アッシュ」


 他に言う言葉が見つからず、なんとなく当たり障りのない言葉を選ぶしかなかった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


お読みいただきありがとうございました。

次回も書き上げたら更新させていただきます。

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