第5話~ローマンに対するラビの回答~

ご興味を持っていただきありがとうございます。

この話も楽しんでいただけたら幸いです。

よろしくお願いいたします。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「……わかった。それでいい。好きにしてくれ」

(俺は魔法の勉強をしたかっただけなんだが……はぁ……)


 投げやり気味に返答をする。


「よし! これで話がまとまったな!」


 俺が了承したことに、ローマンは大きく頷いて喜びを示した。


「まずは今日、入学式で新しい教師としてお前が紹介されるんだ! これなら間に合いそうだぞ!」

「…………なるほどな。色々合点がいく」


 下級魔法学校の職員たちは俺が教師になることを知っていたのだろう。

 だから、受付の時や導きの扉を出た後、普通の新入生とは違う対応をされたのだ。


(ここまで入念に準備をしていたので断れなかった)


 おそらくローマンを始め、ザックさんなど多くの職員たちが絡んでいるはずだ。

 教師になることを断ってしまったら、魔法の勉強すらできなくなるかもしれない。


(こんな形で魔法学校に関わることになるとは……人生わからないものだ)


 心の中で大きくため息をついていると、ローマンが俺に背を向ける。


「俺についてきてくれ魔法学校に案内する」


 ローマンはカウンターの奥へ入ってくるように俺へ合図を送ってきた。

 指示に従い後に続き、廊下を進んで行くと、大きな部屋に出た。

 そこは天井が高く、中央に赤い絨毯が敷かれている。

 ただ、絨毯以外の家具が一切なく、窓もないので暗くて寂しい部屋だった。


(ここは一体……?)


 室内の様子をうかがっていたら、ローマンがズボンのポケットから手のひらほどの石を取り出した。


「あー、あー、聞こえるか? ローマンだ」

(通信石? どこと連絡をしているんだ?)


 ローマンは発言した後、通信石を包み込むように持った手を耳の近くにかざして待機していた。

 通信石は対となる通信石を通話することができる、魔道具である。

 有効範囲は街の中ならどこでもといった程度という印象だ。

 今のように連絡を取り合うには便利だが、とても貴重な物なのであまり所有している者はいない。


(通信石のお陰で、どこででも情報のやり取りができるからな……)


 こういった便利なアイテムを開発してきた発明家たちに尊敬の念を抱きつつ、ローマンの様子を窺う。

 やがて、通信石の向こうからザーザーという音が聞こえてきた。


「フランシスです。ローマンさん、ラビ先輩の説得はどうでしたか?」

(フランシス?)


 ローマンの持っている通信石からフランシスの声がした。

 どうやら対の通信石を持っているのはフランシスのようだ。

 ローマンは事前にそのことを知っていたのか、安堵しながら口元へ通信石を近付ける。


「あぁ、なんとか了承してもらえたぞ」

「本当ですか!? よかった!!」


 興奮した様子のフランシスの声がはっきりと聞き取れた。


(そうか、フランシスも俺の知らないところで準備をしていたんだな)


 俺の思考をよそに、ローマンが続けて話す。


「導きの扉を頼む。今ならまだ入学式に間に合うだろう?」

「もちろんです! 少々お待ちください!」


 その言葉を受けて、ローマンが満足気に俺の方へ振り向く。


「待たせたな。今から魔法学校への導きの扉が開くぞ」

「この部屋は導きの扉用の部屋なんですか?」

「そうだ。ここのギルドは少し特殊でな、魔法学校と深く連携しているんだ」


 言い終わると同時に、ローマンの背後に淡い光が現れた。

 輝きが強くなり、渦が徐々に大きくなっていく。

 渦が安定すると、ローマンが俺の肩に手を置いた。


「またなラビ。俺はここのギルド長になったから、寂しくなったら会いに来い」

「じゃあなローマン。しばらく会うことはないだろう」


 そんな軽口をたたきながら手を振る俺に、ローマンも軽く手を上げて返事をするのだった。


(いつも思うけど、なんでこんなに眩しいんだ?)


 そんなことを考えながら瞼を開こうとした。


「先輩! あれ? 私の後に教員になるから、今度は私が先輩ですかね?」


 聞き覚えがある女性の声を耳にしたため、笑いながら目を開く。


「どうとでも呼べ。俺は呼び方を変える気はない」


 俺がいるのは冒険者ギルドと同じような部屋だった。

 何もない部屋で絨毯だけが異様に赤くて落ち着かない場所だ。

 そんな絨毯の中心に立つ俺の正面に不服そうに頬を膨らませるフランシスがいた。


(なぜ怒っているんだこいつは……)


 理由がわからないので、首をかしげてしまう。


「私はまた先輩と一緒に働けると思って凄く楽しみにしていたんですよ」


 俺の反応が薄いからか、フランシスが不貞腐れたように言葉をぶつけてくる。


「仕事の同僚が誰だろうと関係ないだろう? 自分に与えられた役割を全うするだけだ」


 正論を述べたのだが、彼女の機嫌は戻らない。

 俺の意見を聞いて、さらに不機嫌さが増してしまったような気がする。

 これ以上何か言おうものなら怒りを買いかねないと判断した俺は口を閉じておくことにした。

 そのまま黙っていると、フランシスが小さく微笑んだ。


「先輩は本当にあの頃と変わらないんですね」


 フランシスはそう言って、碧い瞳をわずかに細めた。

 ただ、言葉とは裏腹にその表情はとても悲しそうな笑顔だった。


「さてと……そろそろ行きましょうか」


 フランシスが俺の背後にある扉へ視線を向ける。


「いくってどこにだ?」

「どこって……入学式をやっている大講堂ですよ」


 両手を腰に当てて呆れたように言葉を返してくるフランシス。


(入学式で紹介されるんだったな)


 心の中で思い返しながら小さく頷く。


「わかった。案内してくれ」

「こっちですよ、先輩」


 元気よく返事をしたフランシスが先導するように歩き出した。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


お読みいただきありがとうございました。

次回も書き上げたら更新させていただきます。

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