プロローグ②~公爵令嬢、バーバラ・ガリアッツォ~

お付き合いいただきありがとうございます。

楽しんでいただけたら幸いです。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


(それにしてもこの子、小さいな……こんな少女、公爵家にいたのか?)


 歩きながらたまに後ろを気にするように視線を動かし、バーバラの観察をする。

 バーバラの背丈は140cmくらいだろうか、かなり小柄だ。

 年齢は不明だが、言動と顔や肌の感じを見るに10代後半だと予想できる。


(入学したらこの年代が俺と同学年になるわけか……どんなことになるんだ?)


 自分よりも一回り以上年下の子供たちに囲まれる学園生活は想像もできない。

 まだ決まっていない未来のことを考えているうちに、大きな扉が見えてきた。


【入学試験会場】


「あそこね!」


 そう書かれた紙が一枚だけ貼ってある扉を発見すると、バーバラが駆け出した。

 走り出したバーバラだったが、キュッという音を立てて急停止する。


「おじさん、案内をしてくれてありがとう!」

「いや、構わないさ」


 俺はバーバラの言葉に軽く頷いて答えた。

 子供からおじさんと呼ばれることには慣れているし、別に悪い気はしない。


(まあ実際、この年代の子から見ればおっさんだからな)


 嬉しそうに扉を開けるバーバラを見送りつつ、俺も歩き出す。

 丸いドアノブをひねり、扉を少し開けると中から声が聞こえてきた。


「順番を守っていただかないと困ります。少しお待ちください」

「順番!? 私以外には案内のおじさんしかいなかったわよ!? 中で迷っている人は後回しにしてよ!」


 バーバラが女性と言い争っているようだった。

 ここまで誰もいなかったのに、中にいる女性は俺がバーバラよりも早く来たことがわかっているようだった。


(もしかして、あの紙にもなにか魔法が使われていたのか? すごいな)


 言い争っている声を聞きながら、扉をゆっくりと押す。

 部屋の中では、茶色の髪を後ろでまとめ、眼鏡をかけている女性が腰に手を当てて怒っていた。


「それにしても、ラビ先輩の名前を書くなんて、いたずらにもほどが──」


 怒りを露わにしている眼鏡の女性と目が合い、俺は目を見開く。


「フランシスじゃないか。久しぶりだな」

「え!? ラビ先輩!? 本物!?」


 フランシスは俺の顔を見て驚くと、急に慌てだした。

 懐から杖を取り出し、俺へ向けてきた。


「先輩がこんなところにいるはずないわ! 姿を現せ!」


 フランシスの杖先から光の玉が放たれ、俺に向かって飛んでくる。


(なんで偽物扱いなんだ……それに、いきなり魔法を撃ってくるなよ)


 呆れつつも、冷静に対処する。

 飛んできた光の玉を左手で受け止めると、すぐに握りつぶした。


「なっ……!?魔法を素手で潰すなんて……やっぱり本物のラビ先輩!?」


 俺の手の中で消えていく光を見ながら、フランシスは驚きのあまり固まってしまった。

 フランシスの隣には、バーバラが唖然とした表情で立っている。


「すまないな。俺が先に来ていた受験者なんだ」


 先にバーバラの誤解を解くために、俺は説明を始めた。


「あなたが……ラビ……グライダー……さん?」

「そうだ。君と同じ、下級魔法学校を志望しているラビだ。よろしく頼む」


 俺は名乗って、握手をするためにバーバラへ手を差し出す。

 バーバラは恐る恐るといった感じで、俺の手に触れるのを躊躇している。


「私はバーバラ・ガリアッツォよ……触っても大丈夫なの?」

「問題ない。触れただけではなんの危害もない」


 そう言って、俺は再び手を前へ出した。

 すると、今度はバーバラが手を握ってくれたので、そのまま握手をする。


(この子の手、小さいな)


 握った手の感触は柔らかく、とても小さい。


(こんな手で戦えるのか?)


 そんなことを考えていると、フランシスが俺の横に立つ。


「あのー、ラビ先輩? お取込み中すみませんが、そろそろ事情を説明していただきたいのですが……」


 フランシスが遠慮がちに声をかけてきた。


「冒険者を辞めたから、ここで魔法を習いたいんだ」


 フランシスに促され、俺は事情を簡潔に説明した。


「冒険者を辞めた!!?? ラビ先輩が!!?? 噓でしょ!?」


 俺の話を聞いた途端、フランシスは大きな声を上げて驚いた。


「そんなに驚かなくても良いだろう……確かに、辞める時は散々引き留められたけどな」

「だって、ラビ先輩は白銀級じゃないですか!! 誰だって引きとめますよ!!」


 興奮した様子のフランシスを宥めていると、隣にいるバーバラが話しかけてきた。


「ねえ……あなた本当に白銀級の冒険者を辞めるの?」

「ああ、辞める。俺は魔法を学びたいからな」

「どうして? 冒険者でも魔法は学べるでしょう?」

「いや、冒険者のままじゃダメだ。俺は勉学に集中したいんだ」


 俺がそう答えると、なぜかフランシスが頭を抱えた。


(そういえば、どうしてフランシスがここにいるんだ?)


 俺よりも前に冒険者を辞めたはずのフランシスがなぜここにいるのかが気になった。

 こいつは上級魔法学校を卒業して、冒険者として活動していた。

 だが、一年ほど前に恩人から頼まれたと言って冒険者を辞めた。


「フランシス、お前はなんでここに居るんだ? 俺みたいに試験を受けに来たわけじゃないだろう?」


 俺が質問を投げかけると、フランシスがビクッと体を震わせ、挙動不審になる。


「そ、それはですね──」

「フランシス先生は我が校で指導をしてくださっている先生じゃぞ」


 フランシスが何か言いかけたところで、奥の扉から白い髭を蓄えた老人が現れた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


気の向いた時に綴るため、次回更新は未定です。

1話程度の文量を書き上げたら更新いたします。

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