何でも知ってるヤンデレ系陰キャ後輩に秘密なんて作れません!
絹鍵杖
隠してきた、何でもない秘密。
誰も彼も、隠したいものの一つや二つは必ず抱えている。
例えば、今日のテストの結果とか。
「……先輩。この点数は何ですか?」
「一六点、だ。……まぁ、そこそこ頑張った方――」
「一〇〇点満点ですよこれ」
例えば、誰かにいじめられたこととか。
「……これ、誰にやられたんだ」
「……あ、いつものことなんで大丈夫です。ほんとに……」
「……………………」
例えば、一緒に暮らす誰かが怪我をして帰ってきた日だとか。
「先輩っ! ……なんで、どうして……!」
「……何でもない。いつもの嫉妬連中からだ」
「そんな嘘、すぐにわかりますっ!あいつらに、先輩がやり返す必要なんてなかったのに……!」
例えば、調味料の保管場所とか。
「ええと、塩の予備は……」
「そこです先輩。上の棚の左側にあります」
「あれ、おれこれ買っといたか?」
「この前見たときに無くなりそうだったので、わたしが買っておきました」
だけど、彼らの間に限って言えば、その秘密は筒抜けなのだ。
隠そうとすればすぐにわかり、一緒にいるだけで想いは共有されていく。
「先輩」
「……なんだよ」
「先輩って、ものすごくわたしのこと好きですね」
「…………」
塩を取り落とす。口を開けていた袋は盛大に中身をぶちまけて、塩のゲレンデを床に作り上げる。
少女は、あらら、と言いながら床に触れていない部分だけを掬いながら、
「わたしも、先輩のことが大好きです。これからもずっと、一緒です」
少年がずっと隠してきた心に、差し出す予定のなかった手紙に、返事をした。
「……うん」
その返事の返答は、とてもぶっきらぼうなものだったけれど。
確かに、嘘ではなかった。
お互いがお互いを想うが故に、二人の間に秘密は形成されることはない。
蓄積されるのは、真実のみ。
「それはそれとして」
「うん?」
「……その。一緒にお昼寝してる間、わたしに抱きついてくる先輩のクセ、早く直した方がいいかも……です」
「…………あい」
本当に、自分でさえ気づけない秘密も、筒抜けなのだから。
何でも知ってるヤンデレ系陰キャ後輩に秘密なんて作れません! 絹鍵杖 @kinukagitue
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