好きだよ

 そのまま軽く昼食を済ませ、解散となる。

 さくらちゃんと花田くんはこの後初デートの予定だったらしくて、二人とも照れながら私たちと別れて行った。

 その様子を微笑ましく見送って、私も意を決して陸斗くんに向き直る。

「陸斗くん! その、話があるんだけど……この後ちょっといい?」

「え? あ、ああ。いいぜ?」

 少し力んでしまったせいか勢いがついてしまう。

 そのためか陸斗くんはちょっと戸惑い気味だ。


 私、気張りすぎ。

 少し反省していると、工藤くんの嘆くような声が上がった。

「何だよ、お前らもデートか? 羨ましい」

「で、デート⁉」

 そんなつもりじゃあなかったけれど、二人きりになろうとしているんだからそういうことなのかもしれない。

 また緊張してきた。

「まあまあ、いいじゃない。あんたは私と遊びましょ」

 何かを察してくれたのか、美智留ちゃんが工藤くんの背中を押して笑顔を私に向けてくれる。

「頑張れ、灯里」

「う、うん」

 やっぱり気付いている様子の美智留ちゃん。

 そんな彼女からのエールに、私は感謝の意味を込めて頷いた。


「はぁ……もうこうなったら俺たちもつき合っちゃうか?」

 背中を押されながら工藤くんが冗談っぽく口にするけれど、美智留ちゃんは瞬時に嫌そうな顔をする。

「は? 嫌よ。あんたのことは友達としか思えないし、大体好みじゃないし」

「分かってるっつーの! 冗談に真面目な回答すんなよ⁉」

「冗談ならちゃんと笑えるものにしなさいよ! この流れでその話題って笑えないから!」

 ぎゃいぎゃいと、ある意味仲良さそうに二人も私たちから離れて行った。


「……とりあえず、俺たちも移動するか?」

「うん、そうだね」

 気持ちを伝えるのに、いくら何でもこんな人通りが多い場所じゃあね。

 どこが良いだろう、と二人でぶらぶらしながら人が少なそうなところを探していると、商店街の間にある小さな公園が目に入った。

 遊具が三つほどと、ベンチが二つの小さな公園。

 今は遊んでいる子供もいなくて、丁度良いかなと思った。

「あそこで休もうか?」

「ん? ああ」

 二人で近くの自販機で飲み物を買って、その公園のベンチに座る。

 軽く喉を潤してから、さてどうしようと緊張がまたぶり返した。


 いきなり私も好きって言うのはないよね。

 どうやって切り出そう……。

 口を開けたままの麦茶のペットボトルを両手で包むように持ちながら悩んでいた私に、陸斗くんは自分から話を振って来てくれた。

「にしても、お前もだけどあいつらもさ……俺が総長とかやってたって聞いてもあんまり怖がらなかったな」

「え? ああ、そうだね」

 どうやって告白しようとばかり考えていたから、一瞬何を言われたか分からなかった。

 でもすぐにみんなのことを言ってるんだと理解した私は普段通りに会話する。


「やっぱり、何だかんだ一緒に過ごした時間があるからじゃないかな? みんなで行動するようになってまだ数か月だけどさ、なんだか……仲間って感じだし」

 だから上辺うわべだけの判断で決めずに、今まで見てきた陸斗くんの方を信じてくれているんだろうって。

「そっか……うん、仲間だよな」

 噛みしめるような言い方に私は隣に座る陸斗くんを見る。

「中学の頃の火燕の連中もそんな悪い仲間じゃなかったけどな……でも、こういう普通の学生でも仲間って思える連中に会えたのは、普通に嬉しいな」

 しみじみとそんなことを口にした陸斗くんは、幸せを噛みしめるような笑みを浮かべていた。

 キュン、と胸の辺りが締まる。

 泣きたくなるほどの好きという気持ちが突然あふれ出た。

 陸斗くんのこんな笑顔をもっと隣で見ていたい。

 そう思ったら、自然と言葉が口から出ていた。


「……好き」

「ん? は?」

「私、陸斗くんが好き。ごめんね、気付くのが遅くなって」

「っ!」

 突然の告白に流石に驚いたんだろう。

 陸斗くんは息を呑んで目を見開いていた。

「だ、だから……その……つ、付き合ってください!」

「……」

 何かもう一言言わなきゃと思って定番のお願いを口にしたけれど、中々返事が来ない。

 おかしいな? と思って改めて陸斗くんの顔を見て言葉を失った。


 陸斗くんの顔が、ゆでだこ状態というほどに赤かったから。

 え? 何でこんなに赤いの?

 私が好きだって言ったから?

 え? いつも自信満々な感じに笑ってた陸斗くんが?

 信じられなくてまじまじと見てしまう。

「ちょっ、あんま見んな」

 顔を隠すように大きな手のひらで口元を覆った陸斗くんは、そのまま心の内をさらけ出すようなことを口にした。


「ったく……何なんだよ。……結構積極的なスキンシップしても嫌がらねぇから嫌われてはいねぇってのは分かってたけど……でもちゃんと好きって言って貰えたらこんなに嬉しいとか……あー! ヤバイ、照れる」

「……」

 いつもはちょっと俺様な感じのする陸斗くんだけれど、今はむしろ可愛くすら見える。

 驚いたけれど、そんな姿も新鮮で……やっぱり好きだなぁって思った。


「夢とかじゃねぇよな? ちゃんと、灯里は俺の彼女になってくれるんだよな?」

 念を押すように確認してくる陸斗くんが少し可笑しい。

 私は笑いをこらえて「うん」と頷く。

 彼のシャツの裾をキュッと掴んで、もう一度お願いした。

「私を……陸斗くんの彼女にしてください」

「っ!……ヤバ、可愛い……」

 そのまま肩に腕が回されて抱き締められると、私の顔も真っ赤になる。

 少し離れてお互いの赤い顔を見て、自然と近付く。


 そして、私たちは初めて両想いのキスをした。

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