鼻血ぶー
「おい、どういうつもりだ?」
「どういうつもりとは?」
「はぐらかすな!」
「はぐらかすもなにもないんだけどな」
「やっと男同士腹を据えて話せるタイミングになったんだ。正直に言えよ」
バチン! 痛って……。わざと顔に当たるように狙いやがったな。
時間は過ぎて六時間目。今日最終の授業は体育。腹いっぱいになって眠たくなる時間に身体を動かすのは理にかなっているのかいないのか。
男子は隣のクラスと合同で体育館でのバレーボール。女子はグラウンドで高跳びらしい。
俺は
何度もしつこく言うが、俺は幼馴染だという
記憶のない幼馴染に対して、俺の態度が気に食わないから民人は食って掛かって来ているのだろう。
「あっ!
「うわホントだ、先生俺保健室に連れて行きます!」
「いや僕が付き添いますよ!」
「お前らサボりたいだけだろー。
という事で、保健室へ向かう事になった。
「なぁ民人、俺と羽那子が幼馴染だって事は受け入れる。お前から見て俺達って、どんなだった?」
ダラダラと廊下を歩きながら民人に尋ねる。鼻血が出ているから俺はずっと天井を見上げているので、民人が後ろから俺の肩を持って誘導してくれている。
女子力の高い隣のクラスの奴からポケットティッシュをもらい、とりあえず鼻にぶっ刺しているが、保健室でこれ以上する事があるだろうか。
「受け入れるも何も……、まぁいいか。
仲が良い恋人同士だな。お前は本当にはなちゃんを大事にしてるのが分かるし、そんなお前と一緒にいれて、はなちゃんは幸せそうにキラキラしてる。
……羨ましいよ、ホント」
自分で聞いておいてちょっと寒気がする。俺達ってこんな空気感で喋る事あったっけ?
長い付き合いの民人が言うんだから、俺と羽那子は付き合っていたのだろう。あくまで、民人の記憶の中では。
……いや、ちょっとしつこ過ぎるかな。俺はそうは思わないとはいえ、周りがこれだけ俺と羽那子の仲を証明しているんだ。
世界で俺だけが、羽那子の事を忘れてしまったのかもしれない。そんな突発的な病気もあるだろう。
もしかしたら、こんなに元気なのに病気な訳がねーだろうがっていう反発心というか、自分の身に起こっている何かに対する反抗心から幼馴染という存在を否定したいだけなのかもな。
「はなちゃんにあんな顔をさせられるのはお前だけなんだよ。忘れたとか、知らないとか、言うなよ」
……あれ? もしかして、民人さん?
「お前、羽那子の事……」
「着いた着いた! 失礼しまーす!!」
うるさっ! 耳元ででかい声出すな!!
「とりあえず横になって、もう今日は授業ないからゆっくりしていって下さいね」
養護教諭のおばあちゃん先生は、それだけ言ってデスクワークの続きに取り掛かった。何か忙しいらしい。
「頭打ったついでにはなちゃんの事思い出せば良かったのにな」
「そんな簡単じゃないだろ」
「簡単に忘れたのにか?」
突っ掛かって来ますねー。ってか俺ベッドで横になってるだけなんだから、お前は授業に戻ればいいだろうに。
「忘れただの知らないだの、幼馴染を何だと思ってんだよ」
「そうは言われても、俺にだって分かんねーんだよ!」
思わず起き上がり、言い返す。そもそも一番混乱しているのは俺だ。考えても仕方ないし、知らないからと羽那子を遠ざけている訳ではない。むしろ知った振りをして接するなんて事をしないだけ誠実だと思ってほしいね!
「コラコラ、いきなり起き上がって大きな声出して。止まるものも止まりませんよ?」
おばあちゃん先生がベッドへと歩み寄る。うるさい静かにしろと怒らないんだな。
「先生、こいつが生まれた時から一緒にいる幼馴染の事、分からなくなってしまったみたいなんです」
おい、俺を差し置いて俺の身に起こった話を相談するんじゃないよ。
おばあちゃん先生が俺と民人を交互に見やり、近くにあった丸椅子に腰かけた。
「聞きましょう」
貫禄あるな。見た目小さいおばあちゃんなのに。
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