知らないのは俺だけ!?
ヤバイ、終わった。
仲が悪くないとはいえ、兄のこのような状況を見てしまったら、妹としては失望せざるを得ないだろう。
お兄ちゃんの不潔!
信じられない!
朝っぱらから発情とかマジアニマル~、兄マル~、ウケる~
など罵詈雑言を浴びせられるだろうと身構える。
「はなちゃん、また窓から入って来たの? まぁお兄ちゃんが鍵を閉めてないから入れた訳だし、これってもしかして誘い受けってヤツ?」
……何か色々違う気がする。
「窓から部屋に入るのは幼馴染の特権だからねー」
「お兄ちゃん、いつまでやってんの? そういう事は家に家族がいない時にしなさいってママが言ってたでしょー?」
え、母さんってそんな事言うキャラだったっけ? いやいやいや!
「伊千香、この女の人知ってんのか!?」
「もういいよそんなボケは。朝からツッコミ入れるの面倒だよ? あ、ツッコむのはお兄ちゃんか」
うわー、妹がおかしいよー。ふっと気が遠くなってベッドへ倒れ込んだ。豊かな膨らみへダイブしそうになったが、何とか身体をひねって知らない女の人を避ける。
狭いベッドの上なので壁に側頭部をぶつけた。頭がクラクラする。
「はいはい時間も時間なんで脱がせちゃうね」
抵抗出来ないままにスウェットの上下を脱がされてしまった。今日のパンツは赤のボクサータイプです。
ってそうじゃなくって!
「はいシャツを着ましょうね」
「何で顔洗う前に着替えなきゃならないんだよ!?」
「あれ? いっくんってそっちのタイプだったっけ?」
他にどんなタイプがあるのか知らんが、俺は起きて寝間着のまままず歯磨きして洗顔し、朝食をとってから制服に着替える。
春になったとはいえ、裸で顔を洗うのは寒過ぎるので脱がされたスウェットを再び着る。
その間に伊千香は部屋を出て階段を降りて行った。
「それで? まだ君の名前も知らないんだけど」
『はなちゃん』と呼ばれていたから、伊千香とは少なくとも知り合いだろう。けど俺は全く知らん。
俺は名前も知らない女の子に跨られたり脱がされたりしたのか。もうお婿に行けないって正に今言うべき言葉なんじゃないだろうか。
「えっ!? ……あたしの名前が分からないの?」
「分からないんじゃなくて、知らないの」
「うそ……、あたしちゃんと……」
何やらぶつぶつ言いだした。腕を組みながら考え込んでいるから非常にアレが強調されてとってもアレです。
「はぁ……。時間も時間だし、俺は顔洗いに行くわ」
勝手に入って来たんだから勝手に出て行くでしょう。窓から出るのなら落ちないように気を付けてもらえればそれでいいや。
部屋を出て階段を降り、洗面所へ。4人家族の中で俺が一番起きるのが遅いので、この時間帯は誰も洗面所を使っていない。
歯磨きを終えてT字カミソリで髭を剃る。電動シェーバーはどうも剃り残しが多くて好かん。
洗顔まで終えてダイニングへ向かう。
「おはよー」
いつもの席に座る。すでに目玉焼きが乗っかったトーストが置かれている。今日はパンか。
「はいコーヒー」
「おう、ありがとう……ってまだいたのかよ!」
自然な手つきでコーヒーカップを手渡すな! いや俺はブラックで飲むから砂糖とミルクはいらん!
「朝から亭主関白ごっこか? 父さんの時代でもすでに廃れてたぞ」
「そうよ、今どきそんな男は流行んないんだから。優しくて稼ぎの多い男になりなさい。そして家に5万入れてね。大丈夫、ちゃんと独り立ちする時に通帳ごと返してあげるから」
「お兄ちゃんは就職と同時に結婚するだろうから家にお金なんて入れないんじゃない?
ねー、はなちゃん」
「そうね。でも仕事に慣れるまではしばらく籍は入れない方がいいんじゃないかな。
仕事と家庭、同時に背負う責任が増えるといくらいっくんでも潰れちゃんじゃないかなって思うんだよね」
馴染んどる!? 父さんも母さんも妹も、俺の知らない女の子と仲良く朝の会話を弾ませとる!?
「となるととりあえず結婚を前提とした同棲か。2人同時に家を出るのか。
……想像しただけで泣けてくるな」
「大丈夫よ、何年もしないうちにすぐ賑やかになるわ。
伊千香の時に買ったベビーベッド、まだあったかしら……」
俺と俺の知らない女の子との明るい未来を想像しとるー!!?
一体どうなってるんだ……!?
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