終活の向こう側

@ton_neru

第1話 天井

信頼していた先輩が、コンビニの店先で倒れたのは青空が綺麗な朝だった。薄汚い繁華街の道路に倒れた先輩は、最期にあの綺麗な空を見ながら死んでいったのだろうか?先輩が死んだ年齢を越えた俺は、皮肉にも青空ではなく病院の天井を見ながらそんな事を考えていた。


身体の自由が効かず、ただ天井を眺めるしかなくなった俺には、中途半端な50数年の人生を振り返る時間がわずかではあるが、残されているように感じた。


俺はまだ大部屋に寝かされている。カウントダウンが始まればきっと個室に移されるだろう。亡くなってしまった先達の見聞きした様子から、そんな事を想像しながら天井を見ていると、誰に何を言い残すべきか、普通であればまずは妻なのだろうが、実はそうではない複雑な事情を残された時間で解きほぐす気になっていた。


俺には妻以外に身体を交える女が三人いる。年甲斐もなくマッチングアプリを使った結果、あれよあれよという間に幾つもの出会いを抱え、その中の三人とは切れずにダラダラと関係を続けていたのだった。


女好きだった死んだ先輩が使うことのなかった、マッチングアプリが、俺の人生をややこしくしていた。

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