誰も知らない、知られちゃいけない

さいとう みさき

悪魔男が誰なのか?

 などと、サブタイトルを書いてみたも、社会的に知られちゃいけない秘密って誰でもあると思う。


 私の場合、オタクであることを秘密にしないといけない。

 昨今さっこん、オタク文化は日本社会に浸透はされたものの、全部が全部受け入れられていると言う訳ではない。

 今日日きょうびの若者の中ではオタクと称し、ライトな感覚で物語るが、旧世代のオタクやそれ以前のマニアの方々に言わせればぬるいのである。


 マニアの方々やオタクの方々が世を忍んでその姿を可能な限り隠し、社会に溶け込んできたと言うのを私もこの年になると実感をして、そして会社の同僚や上司には決してバレてはいけない。


「ねぇねぇ、さいとうさんってアニメ見ます? 今、進撃〇巨人凄いんですよね!」


「先輩、最近うちの子供が薬屋〇独りごとってアニメにはまってて、昔の中国ってマジあんなんっすかね?」


 いやちょっとマテ、何故なぜに君らは私にそんな話を振って来る?

 そりゃぁ、マガジ〇連載時からの読者で、巨人が人を喰うという恐怖感をあの画力程度で表現して、アニメ化する時は大丈夫か? とか心配したも、出来上がったアニメは素晴らしいの一言だった。

 もともと小説で、漫画だって二種類あり、そしてアニメで動いたらコミカルな動きで作画も良し、女性を引き付ける宦官要素で需要幅が広いあのアニメもしっかりと見ている。

 

 だが、あえて詳しく無いように見せなければいけない。


「うーん、確か巨人が出てくる話だよね? なんか怖くない?」


「昔の中国って言われても、出張で行っているだけだからなぁ、しかも上海って首都になった事無い場所だよ? 歴史的なもんなんて兼六公園みたいな400年前のお金持ちの庭園くらいしかないよ、豫園って言う」


 等と、あくまで多少の事しか知らんぞと言う風体を取る。

 ここで重要なのは全部否定しないと言う事。

 話し的にかじった事くらいあるにしておかないと他の場面で発言に食い違いが出てしまうからだ。

 そしてそこから私がオタクである事が暴露される恐れがある。


 何故私がそこまでオタクであることをひた隠しにするかと言うと、今の上司が昭和の方でオタクに対して偏見が強いからだ。


「まったく、ちゃらちゃらしやがって。俺が若い頃なんざ9時10時まで普通に会社にいて仕事したもんだ。それから飲み屋で反省会して帰るのは午前様が当たり前だってのになぁ」

 

 とまぁ、こんな上司なので下手に目をつけられると厄介この上ない。

 しれっとかばん持ちして、「そこそこしか使えない奴だなぁ」くらいに思われる程度の仕事をこなす。

 たまに挽回ばんかいできる範疇はんちゅうでわざと失敗して、一人でだけ仕事させられないようにするのもコツだ。

 社会人としての最低限のコミュニケーションを取りつつ、目立たず人畜無害を装う。 

 私は対人恐怖症の気があるのでなるべく波風立たないようにしなければならない。


 もう心の病で自宅警備員するのは嫌なので。


 と言うか、家のローンもあるし養育費も稼がないとならない。

 お父さんは大変なのだ。


 ……まあ、結婚しないで独身貴族と言う優雅な暮らしも魅力的だったが、最後に誰にも見とれられず逝く時にその後の始末を他の人に任せるのはご迷惑をかけすぎる。

 兄妹もどうなるか分からないと、肉親として自分の子供たちに最後だけは手を貸して欲しいと思う。


 だって、押し入れに入りきらない程のプラモとか、美少女フィギアとか、薄い本とか終活するにしても確実に残るだろうから!

 市役所の人に処分されるときに嫌な顔されたり、価値がある品物をゴミとして処分されるのはオタクとして忍びない。


 そして妻の持ち物も!

 首輪とか、鎖とか、手錠とか、鞭とか、網タイツのエナメルが光る衣装とか……


 これらの秘密は身内だけで墓場まで持って行かなければならないから。



 だから、誰も知らない知られちゃいけない、悪魔男になるしかないのである。

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誰も知らない、知られちゃいけない さいとう みさき @saitoumisaki

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